銀座の名所に再注目 スイーツ話題のイグジットメルサ

ヨーロッパではマスクを外し「新型コロナウイルス感染は過去のもの」というムードだそうだ。日本ではまだ時間がかかりそうだが、街中には人が戻り始めている。銀座や渋谷など東京の繁華街では顕著だ。今回は銀座の中心にある商業施設「EXITMELSA(イグジットメルサ)」の話題の飲食店を紹介する。
同施設は1977年に開業、「ニューメルサ」という名前で長らく運営してきた。2015年にリニューアルを行い、今年またテナントを大きく入れ替えた。22年4月27日に「GINZA SWEETS MARCH(ギンザ スイーツ マーチ)」というスイーツ専門フロアが誕生し、メディアで話題になっている。

まずはこの「ギンザ スイーツ マーチ」から探索しよう。最初はフルーツ大福の専門店「金田屋(かなだや)」から。大福を土台にフルーツをケーキのように立体的に盛り付けた"進化系大福"が売りだ。イートインスペースもあるが1つずつ箱詰めしてくれるので、持ち帰りにしても壊れる心配がない。「特撰苺(いちご)」「渋皮和栗のモンブラン」など定番メニュー7種類に、季節限定メニュー5種類を提供している。
さっそく「特撰苺」を食べた。大福が真っ黒なのは竹炭が練り込まれているから。軟らかな大福には白あんとクリームチーズが包まれ、上には甘酸っぱいイチゴがもりもり。これを崩さず食べるガイドも付いている。中年女子(筆者)はイマドキすぎるスイーツを目を白黒させながらも堪能すると……うまい!
「20代の女性中心ですが、お仕事帰りに『自分のお土産用』や、イートインで食べる男性もいらっしゃいます。最大で全種類を計40個買われた方もいます」と同店のスタッフが説明してくれた。

次は隣の「あんこの勝ち」へ。これまた今っぽい。大阪・心斎橋発祥で「あんこを洋菓子とコラボさせた新スイーツ」を提供している。シュークリームやプリン、タルトと組み合わせた斬新な"あんこスイーツ"が並ぶが「メインはあんこ、どのスイーツでも"あんこが勝つ"」よう作られている。
あんこは北海道産アズキを使った「つぶあん」「こしあん」「皮むきあん(皮を一粒ずつむいてから炊き上げたもの)」の3種。面白いのは、「45度」「52度」「60度」と、あんこの「糖度」も明記されていることだ。
「チョコレートが72%、86%などカカオの含有率別に売られているのを見て、これを応用したら、『あんこは甘いから苦手』という方にも手に取っていただけるのでは、と思いつきました」(「あんこの勝ち」代表の森大さん)
スペインから輸入したバスクチーズ専門店で舌鼓

あんこの糖度は、生菓子は50~53度、常温菓子は約60度という一般的な和菓子に含まれる、あんこの糖度を目安に決めたという。森さんの思惑は当たり、心斎橋店は発売後すぐにメディア各社の取材が殺到。スイーツ好きの人気女性芸人が、テレビ番組内で「ANしゅーくりーむ」をNo.1スイーツに選んだことでさらに話題に。
確かに、従来の和菓子のイメージより甘さ控えめで食べやすい。だが、シュークリームもプリンも、何口食べ進んでも主役のあんこが存在感を放つのもすごい。洋菓子だがコーヒーより日本茶がぴったりで、少し濃いめに入れた緑茶と合わせると最高だ。

3店目は「JEROME cheesecake GINZA」。スペインの三つ星レストランでヘッドシェフを務めたジェローム・キルボフさんが監修するバスクチーズケーキの専門店だ。ジェロームさんが展開するレストランは日本国内に2店あり(東京の広尾と市ケ谷)、筆者はどちらも訪れていてこのチーズケーキも食べたことがある。
日本人におなじみのスフレチーズケーキとも、重厚なニューヨークスタイルのチーズケーキとも違う。甘みの中にほんのり塩気を感じ、クリームチーズそのものを食べているようで少し異なる、濃厚だが後味のよいスイーツだ。満腹になった後でも、ぺろりと食べてしまう。
「レストランのお客様には『お土産にこのチーズケーキを持ち帰りたい』と大好評で、専門店を出すことになりました。バスクチーズケーキはトレンドになっていますが、原料にバスク産チーズをスペインから輸入して使っているのは当店だけではないでしょうか。独特の風味や複雑な味が自慢です」(運営会社、Viajes CEO社長の池田さゆりさん)
販売しているのは、ホール(6400円)と、6分の1カットの1ピース(980円)の2種類のみ。デコレーションなしのケーキとしてはそこそこの値段だ。が、熱烈なファンは多く、ホールを3台一気買いする男性や、10個、20個単位でピースを予約購入して周囲に配る客までいるという。

スイーツの後、ほかのフロアも回ってみた。
6階の「M 銀座ウイスキー博物館」も面白い。エスカレーターを上がると、壁一面にボトルが並ぶ姿は壮観だ。もともと銀座6丁目に店舗を構えていたが、ビル解体に伴い、今年4月に「イグジットメルサ」に移転した。
「当店はジャパニーズウイスキーのヴィンテージやレアな限定品まで豊富にそろえています。日本でウイスキーが最初に作られたのは1929年のサントリーの『白札』ですが、以降100年間に製造されたサントリーウイスキーはほぼすべて完備しています」(店舗マネージャーの大崎翔太さん)
8000万円の希少なウイスキーも陳列、見るだけでもどうぞ

約2640平方メートルの広々としたフロアに2300種類、約1万本のウイスキーを置く。ウイスキーはワインや日本酒と違って常温での長期保存に耐えられる。そのためテディベアや楽器、船、えとを模した動物などあらゆる形状の美しいボトルが作られている。飲むだけでなく、インテリアや投資商品としても国内外で非常に人気があるのだそうだ。
「投資用」と言うぐらいで、ぶっ飛ぶ商品も一部ある。飛行機のドリンクサービスで見るミニミニサイズボトルも数千円で売っているが、通常品は2万円から、前述のえとボトルは各年の限定品なので1本10万円。「明仁上皇がエリザベス女王の戴冠式に招かれた際の記念ボトル」(2000万円)や、ほかにも希少品で8000万円(!)するウィスキーもある。
庶民には縁のない話だが、「ウイスキーをこれから知りたい」という初心者がふらりと来店するのも大歓迎だそう。店内には日本の洋酒やウイスキー製造の歴史が学べるパネルも並んでいる。銀座歩きで「博物館」的に利用するのもありだろう。

最後は食事だ。7階は各国の料理が食べられるレストランフロアがあり目移りするが、「喜記(ヘイゲイ)」へ。香港で1965年創業、船上レストランの元祖で「避風塘(ベイフォントン)料理」を出す。17年に西銀座に出店したが、今年1月に「イグジットメルサ」に移転し食の関係者の間ではちょっとした話題になっていた。
看板メニューの「喜記チリガーリック炒め」と蒸し鶏のせご飯」を堪能した(記事冒頭の画像)。チリガーリックは特製調味料とトウガラシ、ニンニクで大エビを炒めたもの。カリカリの辛い衣をまとったエビを、手に持ってかぶりつく。
「チャーシュー蒸し鶏のせご飯」は見た目の味に近い。自家製のたれをしみこませた甘めのチャーシューと、軟らかい蒸し鶏に自家製のネギショウガソースで食べる香港版丼飯だ。女性に人気という薬膳茶のキーマン(中国産の高級紅茶)もいただき、スパイスや薬味と一緒に体が芯からぽかぽかしてきてほっとする。
店内には香港のハーバービューの写真が大きく飾られている。食器やカトラリーは大半が香港から持って来たものだそうで、ちょっとした旅行気分だ。
以上、イグジットメルサの話題の各店を紹介した。人気店を取材し、またこの間にひっきりなしにお客が訪れる様子も見て、少しずつコロナ前の姿を取り戻しているのを感じた。政府は10月11 日から水際措置の緩和も正式発表した。ひと足先に、銀座の活気を感じてみてはいかがだろう。
(フードライター 浅野陽子)
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