「歩く地雷」返上 教育格差是正へ挑戦
大阪市港区長・山口照美さん(折れないキャリア)
「教育格差を解決したい」。教育を生涯取り組む課題と定めて塾講師からキャリアをスタートさせ、公募の小学校長などを経て今春から大阪市の港区長を務める。職を変えても初志は失わなかった。
大学時代に塾講師のアルバイトを経験し、卒業後は勤め先の塾に就職した。「最年少最短で塾長になる」と宣言した通り、3年である校舎の塾長になった。
塾には貧しい家庭の子どもも多く通っていた。こうした子どもたちと接し、「経済格差を教育格差にしない」という目標を掲げた。
人件費は惜しまず良質な先生と授業を提供しよう――。理想を実現するため、20代半ばで管理職になった。だが良い上司ではなかったと反省している。当時は夫に「歩く地雷」と呼ばれる怒りっぽい性格。部下に厳しく、ワーク・ライフ・バランスより生徒のために献身的に働くことを求めた。売り上げを重視する会社とも対立し、5年で退職。その後は教育ライターや起業家のプレスリリースの作成を代行する自営業を11年間続けた。

第2子出産後、大阪市が小学校の民間人校長を募集していると知る。「公教育が変われば貧困の連鎖も断ち切れる」と応募、2013年に浪速区の小学校長に着任した。
赴任先の先生は教員免許も担任経験もない校長に困惑。自分の役割として意識したのは「広報支援と後方支援」だ。現場の情報をホームページやブログで発信、教員が働きやすいよう調整する。たとえば教員の負担を増やさずに子どもの学力を伸ばすため、学生ボランティアや子ども会と連携し無料塾を開いた。
一方で勉強以前の問題を解決することも必要だった。教職員は家庭環境が厳しい家の子どもを朝起こしに行ったり、歯磨き指導もしたりする。教育格差をなくすためには福祉の問題にも取り組み、地域で子どもを育てないといけない。そこで大阪市の公募区長に手を挙げた。
17年に生野区長に就任。地元企業の力を借りて小中学校で実践的なキャリア教育プログラムを実施したり、「区長室だより」では目立たない部署のがんばりも紹介する。就任したばかりの港区長としても「様々な人が力を合わせ、気持ちよく仕事ができるようマネジメントしたい」と意気込む。
(聞き手は船橋美季)
[日本経済新聞朝刊2022年11月28日付]
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