「女性初」の重圧、海で解き放つ
日本郵船船長・小西智子さん(折れないキャリア)
世界的にもまだ例が少ないという女性の船長だ。2017年に就任してから陸上勤務を主とし船舶の安全管理システムを開発、運用する。日本郵船初の女性船員としてキャリアをスタートさせ、これまで自動車の輸送船や物資を載せたコンテナ船など巨大な船の運航を担ってきた。
伊勢湾をのぞむ三重県松阪市で生まれ、父と一緒にヨットに乗るなど幼いころから海に興味があった。資源や食料を海外から輸入する日本には船が必要。「日本の海運を支えたい」と地元の商船高専に進学した。
船員になる夢を描いたが、当時は海外で航海する女性船員の採用実績がある企業はなく、教員からも反対された。「女性だからという理由であきらめたくない」と反骨精神で挑戦し、日本郵船の内定を得た。夢の仕事だが「自分の能力次第で女性の採用が途絶えるのでは」と初の女性船員であることに重圧を感じた。
入社間もないころ、自分が点検を担当した救命ボートが訓練中に沈み出したことがある。栓が壊れていたのを見落としていた。事故には至らず客観的に見れば次から気を付ければいいだけ。しかし、船内には相談できる同期もおらず「自分には能力がないのではないか」と落ち込んだ。
その後ももっと頑張らねばという焦りは残り続けた。入社から6年ほどたったある日、上司から「肩に力が入りすぎ」と声をかけられた。そのころには徐々に社内にも女性船員が増えていた。自分らしく仕事をしようと心に決めた。

航海中は20〜30人ほどの船員が数カ月生活を共にする。フィリピンやインドなど国籍も多様だ。船内では同じ洗濯機やトイレなどを皆が一緒に使う。誰かがわがままを言えば立ち行かなくなってしまう。
機器の故障や悪天候による航海の遅れなどトラブルも発生する。様々な背景を持つ人が一緒に仕事をする上で、システムや設備ももちろん大切だが、一番はお互いの思いやりだと感じている。
船長も日本郵船では交代で陸上勤務をする。就任後はずっと東京・丸の内の本社で船舶の管理システムを運用してきた。エンジニアと協力して安全な運航を支える仕事のやりがいは大きいが、「そろそろ海が恋しくなってきた」。船長として初の航海へ準備は万全だ。
(聞き手は植田寛之)
[日本経済新聞朝刊2023年2月27日付]
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