「食べる花の塩」 料理をおいしく華やかに
魅惑のソルトワールド(64)

「エディブルフラワー」をご存じだろうか? その名の通り「Edible(食べられる)」「Flower(花)」のことで、食用花を指す。その美しさで料理に彩りやアクセントを加えるだけでなく、栄養価の向上をもたらす場合も多い。最近は乾燥させたエディブルフラワーを活用したシーズニングソルトも登場している。エディブルフラワーだけを購入すると、使い道に頭を悩ませ、結局、余らせてしまうことも少なくないが、塩とブレンドすれば、味付けの際などにも気軽に使えるようになる。
エディブルフラワーソルトをいち早く手がけたのは、新潟県阿賀野市にある脇坂園芸。社長の脇坂裕一氏は長らく稲作農家として活動してきたが、東日本大震災をきっかけに、多くの人を元気づけられるエディブルフラワーの生産に取り組んだという。生花や乾燥エディブルフラワーを出荷する傍ら、クッキーやケーキの製造にも取り組み、その中で日常の料理に幅広く使える塩に着目した。
当初はフランスのゲランド産の海水塩を使用していたが、せっかくならば地元・新潟県で生産されている塩を使おうと、ミネラル工房(同県村上市)の日本海の塩「白いダイヤ」に切り替えた。使用される花は季節によってビオラやストック、マリーゴールドなど多種多様で、年間を通じて彩り豊かなエディブルフラワーソルトを生産している。
食用として人気の高いバラを使ったシーズニングソルトを製造するのが、島根県大田市でバラ農園を営む奥出雲薔薇(バラ)園。独自に開発した「さ姫」と名付けられた食用のバラは、深い赤色と芳じゅんな香りが特徴で、そのバラを使った様々な商品を開発している。ヒマラヤ産の湖塩とバラパウダーをブレンドした「薔薇塩」や、パキスタン産のピンク岩塩とバラの花びら、ローズマリーを加えた「ハーブソルト(ミル入り)」などだ。
「花を食べる」ことに違和感を感じる人がいるかもしれない。だが、日本では古くから花を料理に活用してきた。その代表が「菊の花」だ。毎年9月の重陽の節句の際に日本酒に菊の花を浮かべてたしなむ習慣は平安時代のころからあったとされ、江戸時代には花そのものを食用にしたという記載が文献に記されている。現在でもあえ物や酢の物として食卓に上る。

当初は黄色の菊のみだったようだが、昭和の時代になって山形県内で紫菊の生産が盛んになり、紫色の菊も流通するようになった。前回、このコラムでご紹介した「桜の花の塩漬け」もエディブルフラワーの一種といえるだろう。
エディブルフラワーの3つの魅力
エディブルフラワーの魅力は大きくは3つある。まずは、なんといってもその華やかさだ。料理にエディブルフラワーが添えてあるだけで、彩りが豊かになり、料理がぐっと華やぐ。前菜やサラダ、メインの魚や肉料理、デザートやドリンクまでその用途も幅広い。
2つめは、エディブルフラワーの持つ味わいや香り。上質な砂糖のような甘味や爽やかな酸味、さらには心地よい苦味だったり、ピリッとする辛みがあったりする品種もある。サクサク、シャキシャキだったり、ねとっとした粘りがあったり食感が異なる品種もある。それが料理においてはスパイス効果を発揮し、アクセントになる。
3つめは、その栄養価の高さ。品種にもよるが、ビタミンAやビタミンCに富むものや、カリウムを中心に各種ミネラルや、食物繊維を豊富に含むものも多い。エディブルフラワーの栄養価についての研究はまだ途上だが、ある民間企業と大学との共同研究結果によると、ビオラに含有される総ポリフェノール含有量は、スーパーフードであるアサイーの約4倍、マキベリーの約1.5倍含まれている――というデータもある。
エディブルフラワーソルトの場合、使用されている花の香りやその他のスパイスとの相性にもよるが、カルパッチョやサラダなど前菜系の料理に適している場合が多い。また、肉料理よりも魚料理に向いている。生クリームやチョコレート、ミルク、あんこ、いずれの風味にも合うので、ミルクやチョコレート味のアイスにぱらっとかけたり、ぜんざいやどらやきに足したり、チョコレートケーキやショートケーキにトッピングするのもおすすめだ。
日ごろのストレスを食卓で癒やす
エディブルフラワーの生花としての保存期間は長くても5日程度と短い。だから、生野菜と同じような感覚で扱う必要がある。湿らせたキッチンペーパーや新聞紙などの上に重ならないように並べ、ラップをふわっとかぶせ、冷蔵庫の野菜室で保存するとよい。年間を通して楽しむために、乾燥させてドライフラワーの状態にして保存するという手段もある。乾燥させることで香りが少し弱くなったりはするが、平均して1年ほど保存が可能だ。
もし、購入したエディブルフラワーをあまらせてしまった場合は、それを自宅でエディブルフラワーソルトにしてもいい。その方法は以下の通りだ。
①乾きやすいラベンダー、ナスタチウム、マリーゴールドなどを選ぶ
②冷水で花をすすぎ、水を切って、よく乾かす。花弁や葉(食用部)を丁寧に取り分
ける。
③直射日光を避けた場所にペーパータオルを広げ、その上に②を重ならないように並
べて、1~2日かけて乾燥させる。
④完全に乾いたら、お好みの塩を適量いれて混ぜ合わせ、清潔な保存容器に乾燥剤と
ともにいれて保存する。
これでいつでもエディブルフラワーの華やかさを食卓で味わうことができる。花のある部屋で過ごす人は、そうでない人に比べて緊張時に高まる交感神経の活動が約25%抑えられ、リラックス時に高まる副交感神経の活動が約29%も高まる――といった近年の研究データもあるようだ。何かとストレスを感じやすい現代社会。食卓で花の癒やしとおいしさを堪能してみてはいかがだろうか。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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