不本意な異動で広がる視野 上司に教わった働く意義
明治執行役員・河端恵子さん(折れないキャリア)
2022年6月、研究戦略の統括部長として執行役員に昇格した。菓子大手の明治で初めての女性執行役員だ。
バブル経済の絶頂期だった1989年に大学を卒業、当時の明治製菓に一般職として入社した。理系でも女性の総合職採用はなかった。生物科学研究所に配属され、産業用の酵素の開発を担当。衣類に用いる酵素の研究が主な業務内容で、菌の改良にいそしんだ。
一般職と総合職では福利厚生や給与が違う。そして昇進を目指すには総合職になる必要がある。総合職に移るには社内試験に合格しなければならない。男性は試験を受けなくてもいい点が「面白くない」と感じたが、「受かればいいんでしょ」という反骨精神で業務後に試験勉強に励み、無事合格。2年目に総合職に移った。
転機は30歳になって訪れた。「ほとんど転職に近い異動」だ。栄養機能開発研究所という食品を試作する部署で、右も左もわからない。入社から酵素の研究一筋で、今後も酵素の道を究めるものだと思っていた。不本意な異動で「戦力外通告を受けた」と思い込み、落ち込んだ。

異動してから担当したのは緑黄色野菜を練り込んだクラッカーの開発。クラッカーはパン作りと同じように生地を発酵させるが、気温や湿度により毎回発酵状態が微妙に変わる。発酵の進み具合の見極めには特に苦労した。ベテランの技術者に教えを請うたが、すぐにはコツを身につけられなかった。
だがそこでの上司との出会いが「今の自分の根底をつくっている」。上司は実家が和菓子屋だったが、両親が亡くなり店を閉じざるを得なかった。地元で愛された和菓子を提供できない悔しさや、従業員を解雇するつらさを経験したと聞いた。その上司には「食を通じて顧客にどう価値をもたらすかが大事」だと教わった。自分は良いものを作ることだけに熱中していたが、「視野が狭いと気づかせてもらった」。
その後、経営企画部などを経て現在は研究戦略部の統括をする。「もっと研究開発力を強くして経営に生かしたい」。そのためには「社員がうまく結果をだせるようにサポートすることが今の私の使命」と、部下が働きやすいように目を配る日々だ。
(聞き手は河野舜)
[日本経済新聞朝刊2022年12月26日付]
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