人気のブドウ品種大量「ごちゃまぜ」ワインって何?
エンジョイ・ワイン(52)

「赤ならカベルネ・ソーヴィニヨン、白ならシャルドネ」などワインを選ぶ際、ブドウ品種を手掛かりにする人は多い。実際、大半のワインは単一の品種から造られ、ボトルにも品種名が明記されている。ところが最近は、あえて十何種類もの品種をごちゃまぜにして醸造した、品種のわからないワインが静かな人気だ。その魅力と背景を探るとともに、おすすめのワインをご紹介しよう。
東京都内で6月中旬、ポルトガルワインの大規模な試飲会が開かれた。試飲ワインの品種名の欄に「フィールドブレンド」や「混植」と書かれたワインが何本も出品されていた。フィールドブレンドは意訳すると「混植混醸」。同じ畑の中に多種類のブドウを植え、品種ごとに分けずに一緒に収穫し、一緒に醸造したワインを指す。
フランスのボルドー地方や南ローヌ地方のように、2種類以上のブドウを混ぜてワインを造る産地はある。しかし、それらは通常、品種ごとに収穫し、別々のタンクで発酵させて、瓶詰め前に混ぜている。混ぜるブドウ品種もせいぜい数種類だ。フィールドブレンドのように時には20種類以上のブドウを混ぜる手法は非常にまれだ。
「ポルトガルでも20世紀後半の一時期、単一品種からなるワインを造ろうと、カベルネ・ソーヴィニヨンなど人気の国際品種を植える生産者が増えたが、10年ぐらい前からフィールドブレンドが見直され始めた」。ワインコンサルタントの別府岳則さんはこう解説する。
別府さんによると、19世紀半ばぐらいまではフィールドブレンドが世界の主流だった。当時は今ほど栽培技術がなく、ブドウに関する知識も乏しかった。そこで病害や天候不順によるリスクを減らすため、いろいろなブドウ品種を同じ畑で栽培していた。しかし、19世紀後半にフィロキセラ(ブドウネアブラムシ)の大発生を受け、壊滅的な打撃を受けた世界の多くのワイン産地は、畑を再建する際、栽培品種を絞り込み、品種ごとに管理する道を選んだ。
20世紀後半に世界的なワインブームが訪れると、多くの主要産地の生産者は、消費者や評論家受けする人気国際品種の栽培に一段と注力。さらには、欧州の伝統産地にブランド力で劣っていた米カリフォルニア州の生産者が、欧州と同じ品種を使っていることを強調するため、品種名をボトルに明記するマーケティング手法を取り入れたところ、成功したことから、他の新興産地や伝統産地までもが追随。そうこうするうち「ワインは品種で選ぶ」が世界の常識となった。
背景に「原点回帰」の動き
だが、新興ワイン産地が増えて産地間競争が激化すると、同じようなワインを造っていては差別化できないというジレンマを生む。そこでポルトガルの生産者たちが着目したのが、他国に比べて多く残っていた混植の畑だった。そこにはポルトガル固有の土着のブドウ品種がたくさん植わっており、しかも深みのある味わいにつながる古木も多かったことから、他の産地との差別化にはもってこい、と考えた。
ポルトガルだけではない。オーストリアでもウィーン近郊で造られるフィールドブレンド・ワイン「ウィーナー・ゲミシュター・サッツ」が2013年、地域の特性を表現したオーストリアワインに与えられる「DAC」(原産地呼称ワイン)の称号を獲得するなど、フィールドブレンドの評価はじわりと高まっている。品種名の表記を世界に広めたカリフォルニアでも、高品質のフィールドブレンド・ワインを造る生産者が現れている。
フィールドブレンドが注目される背景には、近年のワイン市場のトレンドである「原点回帰」もあるようだ。酸化防止剤無添加のナチュラルワインや、土着品種から造った個性的な味わいのワイン、新樽(たる)の香りを抑えた果実味重視のワインの人気が世界的に高まっているが、これらはすべて「昔ながらのワイン」だ。
別府さんはフィールドブレンド・ワインの魅力を「単一品種のワインは楽器のソロ演奏、フィールドブレンド・ワインはオーケストラ」と表現する。多数のブドウ品種が入っているため、味わいに広がりや深みが出る。だから「いろいろな料理に合わせやすい」し、「品種を覚える必要がないので、気軽に楽しめる」といったメリットもあると指摘する。
別府さんにおすすめのフィールドブレンド・ワインを挙げてもらった(テイスティングコメントは筆者。価格は税込みの小売価格または希望小売価格)。
●「ヴィーニンガー ウィーナー・ゲミシュター・サッツ 2020」(3740円)
オーストリア・ウィーン地方の白ワイン。11種類の品種を使用。グレープフルーツやレモンなど酸味の豊かな果実の香りが刺激的で、ボディーに厚みがあるため余韻もしっかりしている。


●「アントニオ・マデイラ ブランコ コリエイタ 2018」(3850円)
ポルトガル・ダオン地方の白ワイン。20種類以上のブドウを混醸。外観や、やや渋みを感じる味わいはオレンジワインに近い。ナチュラルワインのようなジューシーで体に染み入るような味わいが心地よい。
複雑で奥行きある味わい



●「フォリアス・デ・バコ ウィヴォ レネガード 2021」(3520円)
ポルトガル・ドウロ地方の赤ワイン。25種類以上のブドウを使用。使用ブドウの半分が白ブドウのため、赤ワインだが色がロゼワインのように淡い。イチゴやクランベリーを連想させる赤系の果実味が特徴で、少し冷やし気味にして飲むのがおすすめ。
●「ニーポート レドマ レッド 2017」(6380円)
ポルトガル・ドウロ地方の赤ワイン。約30種類の品種が混植されている畑のブドウを使用。熟したブラックベリーやブラックプラムを感じさせる濃厚な香りのフルボディー。樽由来のスパイスやチョコレートの香りが、複雑で奥行きのある味わいを醸し出している。
●「ベッドロック エヴァンジェーロ ヘリテージ レッドワイン 2018」(7700円)
米カリフォルニア州の赤ワイン。畑はジンファンデル、ムールヴェードル、カリニャン、パロミノ、アリカンテ・ブーシェ、ミッションなどの混植。完熟したブラックベリーやブルーベリーの香りを感じさせるフルボディーのワインだが、しなやかな酸とシルキーな舌触りのタンニンが味わいにバランスをもたらしている。
(ライター 猪瀬聖)
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