SDGsで脚光の南ア産ワイン 高コスパの11本はコレ
エンジョイ・ワイン(47)

南アフリカワイン(南アワイン)が静かな人気だ。欧州やチリ産のワインなどと比べると知名度は低いが、品質の高さと値段の手ごろさが愛好家にうけている。環境に配慮した生産者が多いことから、最近では「SDGs(持続可能な開発目標)ワイン」としても脚光を浴びつつある。
今年2月下旬、東京都内の南アワイン専門店「アフリカー」(東京・中央)で、愛好家向けの試飲販売会が開かれた。新型コロナウイルス感染予防対策の一環で、参加人数を1回4人に絞り、6回行われたが、予約受け付け開始と同時にどの回も埋まった。筆者が参加した回で、隣にいた男性は「本当はもう少し早い時間がよかったが、申し込もうとしたらすでに満員だった」と苦笑い。店長の小泉俊幸さんがカウンター越しに参加者のグラスにワインを注ぎながら、全部で12種類のワインを順番に説明した。
小泉さんはもともとシステムエンジニアだった。10年ほど前、夫婦で南アフリカを旅行し、現地で飲んだシャルドネに衝撃を受け、脱サラして南アフリカ専門のワインショップを開いた経歴の持ち主だ。扱うワインは全部で約400種類。これほど多種多様な南アワインを実店舗、インターネット両方で販売する小売店は、日本ではおそらくここだけだろう。
南アは、ワインの世界では「ニューワールド」(新興国)に属し、ワイン造りの歴史は17世紀にまで遡る。大航海時代にインド航路の中継地として栄えた南アは、当時から入植したヨーロッパ人によるワイン造りが盛んだった。
しかし、20世紀後半に訪れた世界的ワインブームに南アは大きく乗り遅れる。アパルトヘイト(人種隔離政策)により国際社会から締め出されていたためだ。1994年にアパルトヘイトを廃止し国際社会に復帰すると、その質の高さと値段の安さが注目を浴び、輸出が急増。世界7位のワイン生産国にのし上がった。
変化に富んだ気候が様々なブドウ品種を育む
高品質の理由は、何といっても恵まれた気候にある。産地の多くは暖かく乾燥した気候で、シラーやグルナッシュなど南ヨーロッパの主要なブドウ品種がよく熟す。一方、海に近い産地はアフリカ大陸西岸を北上する冷たいベンゲラ海流の影響で比較的冷涼なため、ピノ・ノワールやリースリング、ソーヴィニヨン・ブランなどの品種の栽培に最適だ。変化に富んだ気候が様々なブドウ品種を育み、質の高いワインが造られる背景となっている。
ただ、国際舞台への登場が遅れたのに加え、エルギンやスワートランドなど産地の歴史も浅いため、質の高さがブランド力に必ずしも結びついていない。質の割に値段が安いのはそのためだ。世界的なワイン評論家のジャンシス・ロビンソンさんは南アワインの不遇をしばしば嘆いている。だがこれは、消費者から見れば、お買い得を意味する。
そんな南アワインにも追い風が吹き始めた。南アの主要ワイン産地は、2004年に世界遺産に登録された「ケープ植物区保護地域群」の中にある。9600種類以上の植物が自生し、うち7割が南アの固有種。そうした貴重な自然を守るため、ワイン業界は世界自然保護基金(WWF)などとも協力し、農薬をできるだけ使わないなど持続可能なワイン造りにいち早く取り組んできた。それが最近のSDGsの流れともマッチし、環境意識の高い消費者から注目されるようになっているという。小泉さんは「コストパフォーマンスとサステナビリティーが南アワインの大きな魅力」と述べる。
今も定期的に南アを訪れるなどおそらく日本で一番南アワインに思い入れのある小泉さんに、おすすめの南アワインを選んでもらった。(価格は輸入業者の税込希望小売価格)
【白ワイン】
●「フィースト&ヴァイン シャルドネ2020」(1650円)

フルーティーでキレのある辛口ワイン。リンゴや洋梨などの果実味、ビスケットやナッツなどの複雑な香りが広がる。
●「ヴィリエラ シュナンブラン2021」(1980円)
南アを代表する白ブドウ品種シュナンブランから造る辛口ワイン。パイナップルやグァバ、柑橘(かんきつ)系果実の豊かな香り、木樽(たる)由来のスパイスの香りを感じる。バランスがとてもよく、長い余韻。5年くらい熟成させるとさらにおいしい。
●「マイルズモソップ イントロダクション シュナンブラン2019」(2750円)

熟したパイナップル、黄桃、柑橘系、スイカズラの花の香り。口の中でふくらみのある味わいが広がる。余韻は驚くほどはつらつとした酸味と果実味にあふれている。
●「ジョーダン シャルドネ 2019」(4070円)
レモン、ビスケット、熟したオレンジの香り。リッチでクリーミーな味わいが魅力的。
●「アルヘイト カルトロジー 2019」(5500円)
シュナンブランにセミヨンを10%ブレンド。ほどよいボディーとはっきりとした骨格を兼ね備える。酸も鮮明で、繊細さを醸し出しながらも、塩味と甘みをたたえたレモンのはちみつ漬けのようなリッチな余韻が印象的。
固有種や飲み疲れしないものなど多様な赤
【赤ワイン】
●「ピクルド フィッシュ ピノタージュ2018」(1540円)
ピノタージュはピノ・ノワールとサンソーを掛け合わせて開発した南アの固有種。果実味が豊かで、熟したプラムやコーヒー、キャラメルのようなニュアンスも備える。スモーキーで香ばしい樽の風味が魅力的。
●「グレネリー グラスコレクション カベルネ・ソーヴィニヨン2019」(2145円)

しっかりとした果実味とスパイシーな余韻だが、フレッシュさも感じられる。
●「フラム サンソー 2020」(3080円)

きれいな酸と優しい甘味が心地よく、飲み疲れのしないカジュアルなワイン。
●「セレマ メルロ リザーブ 2018」(5390円)
ベリー系果実の凝縮感が非常に力強く、滑らかなスタイル。
●「シャノン エルギン ロックンローラー ピノ・ノワール2020」(5500円)
エルギンは南アで最も冷涼な産地。焼いた野イチゴ、アメリカンチェリー、フランボワーズ、ドライトマト、赤い花、シナモンやコーヒーなどの香り。滑らかな酸、ほのかな甘味や苦味、うま味と味わいも多彩。木樽の風味とイチゴのような果実感の余韻が心地よい。
●「ブーケンハーツクルーフ シラー 2018」(8800円)
熟したプラム、ブラックオリーブ、白コショウ、カルダモン、スウィートスパイス、鉛筆の芯など、非常に複雑で豊かな香り。いきいきとしたフレッシュな酸、凝縮し豊かな果実味、シルキーで細やかな渋みのバランスが秀逸。
(ライター 猪瀬聖)
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