現場で飲む味は格別 ワイナリーツアーの魅力と楽しみ
エンジョイ・ワイン(49)

これからの季節にワイナリーめぐりはいかがだろうか。新芽が息吹くブドウ畑を散策したり、生産者の話を直に聞きながらワインをテイスティング(試飲)したりと、家飲みでは味わえない楽しさを体験できる。日本でもワイナリーの数が年々増えるのに伴い、ワインツーリズムが盛んになっている。
JR北陸新幹線・上田駅でしなの鉄道に乗り換え、2つ目の大屋駅で下車。タクシーで数分ほど坂道を上ると、一気に視界が開けた。標高約650メートルの小高い丘の上に、開放的なガラス窓が印象的な2階建ての真っ白い建物が姿を現し、それを取り巻くようにブドウ畑が四方に広がる。シャトー・メルシャン椀子(まりこ)ワイナリー(長野県上田市、https://www.chateaumercian.com/winery/mariko/)だ。
開業が2019年9月とまだ新しいワイナリーだが、20年、21年と2年連続で英国の出版社、ウィリアム・リード・ビジネス・メディア社主催の「ワールド・ベスト・ヴィンヤード(ワイナリー)」の世界ベスト50に選出された。他にランクインしたことがあるのは、フランスのシャトー・マルゴーや米国のオーパス・ワン・ワイナリーなどそうそうたる顔ぶれが並ぶ。日本のワイナリーで過去、ベスト50入りを果たしたのは、椀子ワイナリーだけだ。
選出には、そこで造られるワインの品質や名声や景観、ワイナリーが提供するツアーの充実度などが考慮される。椀子ワイナリー・ワイナリー長の小林弘憲さんは「360度、畑を見渡せる景観や、ワイナリーのすべてを見学できることなどが評価されたのではないか」と語ると同時に、「選ばれたことは素直にうれしいが、責任も感じる。畑の管理や品質の向上にこれまで以上に取り組んで行きたい」と抱負を述べる。
ツアーの1つ「椀子プレミアムツアー」を体験してみた。ガイドはソムリエの資格を持つ椀子ワイナリー製造部の窪田博子さん。まずは、椀子の畑のシャルドネとソーヴィニヨン・ブランから造った長野県内限定販売のスパークリングワインを、ウエルカムドリンクとして味わいながら、ワイナリー開設に至るまでの歴史や自然と共生しながらのブドウ栽培話などを聞く。

次に畑に出て、ブドウの出来を大きく左右する気候や土の話、収穫するまでに畑で行う作業話などを、窪田さんがわかりやすく説明してくれた。「ここは四方を山に囲まれているので雨雲があまり入ってこず、雨が比較的少ない。それでブドウの糖度が高くなる」。周囲の山々を眺めながら聞くと、椀子のワインが高評価なのがすんなりと理解できる。
ステンレス製の大きな醸造タンクがいくつも並ぶ醸造エリアやワインを熟成させるオーク樽(たる)が積み重ねられた樽庫の中で、醸造に関するレクチャーを受けた後、最後に6種類のワインをじっくりとテイスティング。ワイナリーで飲むワインの味は格別だ。
今回体験したツアーの他にも、ブドウ畑を散歩しながらワインを楽しむ「椀子ウォーキング&ランチツアー」や、ワインメーカー(醸造家)と一緒にテイスティングできる「椀子ワインメーカーズツアー」などがある。いずれも有料で、ホームページから、あるいは電話による予約が必要だ。ツアーに参加しなくても畑の見学や試飲(有料)はできる。ワイナリーでしか手に入らないワインも販売している。

椀子ワイナリーから千曲川を挟んで反対側の山の斜面にあるヴィラデストガーデンファームアンドワイナリー(長野県東御市、https://www.villadest.com/winery)もおすすめだ。エッセイストの玉村豊男さんが約20年前に建てたワイナリーで、そのワインは16年の伊勢志摩サミット(主要7カ国首脳会議)の晩さん会で各国首脳に振る舞われるなど、評価が高い。
地元の食材使った料理と一緒にワイン楽しむ
その名の通りワイナリーの周囲には、春から秋にかけて色とりどりの花が咲き乱れるガーデンが広がり、来訪者の心を癒やしてくれる。天気がよければ、壮大な北アルプスのパノラマも堪能できる。
醸造所の建物の2階にはショップとレストランがあり、レストランでは自家農園や地元産の野菜や肉を使った料理をワインと一緒に味わえる(時間帯によっては予約が必要)。醸造所内を見学できるツアーもあるが、現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のため休止中。代わりに、園内数カ所に設置されたQRコードを利用して、セルフガイドツアーを楽しむことができる。
椀子ワイナリーやヴィラデストガーデンファームアンドワイナリーなど周辺のワイナリーをまとめて訪れたい人には、タクシーの貸し切りサービスが便利だ。一般社団法人信州とうみ観光協会(東御市)は、両ワイナリーを含む地域のいくつかのワイナリーをまわる「とうみワインタクシー」を運行している。専用のホームページ(https://tomikan.jp/wine_taxi/)から予約できる。

ワイナリー巡りができるタクシーも
ワイナリーを訪れることを目的としたワインツーリズムは世界的に人気が高まっている。ウィリアム・リード・ビジネス・メディアがベスト・ワイナリーの選出を始めたのも19年からだ。日本でも、ワイン人気の定着でワイナリー数が年々増えているのに伴い、ワインツーリズムも活発になってきた。
ワイナリーが集積している山梨県の笛吹・勝沼地区や長野県の北信・東信地方、まだ数は少ないとはいえ新興ワイナリーが注目を集めている新潟市は国内ワインツーリズムの人気スポットになっている。東京からもアクセスが良い山梨県のワイナリーには、4月からすでに観光客が訪れているという。
山梨県甲州市の「MGVs(マグヴィス)ワイナリー」(https://mgvs.jp/)は2017年にオープンしたばかりで、しゃれた雰囲気のショップや試飲コーナーが観光客に人気だ。ショップから大きなガラス越しに醸造エリアを見学できるほか、ワイナリーに隣接するブドウ畑でガイド付きツアーを楽しむこともできる。
山梨の笛吹・勝沼地区では長野と同様の「やまなしワインタクシー」(http://yamanashiwinetaxi.com/)が運行しており、利用すると便利だ。新潟市のワイナリーは比較的狭い地域に集まっており、ワイナリー巡りがしやすい。新型コロナの影響などで観光客の受け入れを中止しているワイナリーもあるので、事前によく調べてから出かけたい。
(ライター 猪瀬聖)
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