エレコムが家電に参入 単身世帯向けのホットプレート

パソコン周辺機器大手のエレコムが家電市場に参入する。IH型のホットプレート「HOT DISH(ホットディッシュ)」で、6月下旬に発売予定。社内にデザインチームを結成し、単身世帯の増加や晩婚化の進む社会を背景に、1人で暮らす人の生活空間になじみやすいデザインを意識して開発した。
「HOT DISH」はエレコム初となる家電のプロジェクト。IHヒーターと調理するホットプレートで構成し、ホットプレートをそのまま皿として使える点が特徴だ。パスタやリゾット、炒め物のほか、豚汁やトーストなど幅広いメニューに対応する。調理や食事、後片付けなどの一連の動きの大部分をHOT DISHの上で完結できるほか、洗って乾かすまでも手軽にできるようにした。クラウドファンディングサイト「Makuake」で2021年1月に発表したところ、目標金額を超えた526万1140円が集まった。発売後の一般販売予定価格は2万1780円(税込み)。


発売に当たり、家電ブランド「LiFERE(リフィーレ)」を打ち出し、第1弾の製品としてHOT DISHを位置付けた。料理に興味はあっても自炊を面倒に感じている人は少なくない。HOT DISHの特徴は簡単なメニューでも見栄えが良くなる点。メインターゲットは30代半ばから後半にかけての比較的、生活にゆとりのある単身世帯だが、大学生やシニアで一人暮らしをする人や夫婦で二人暮らしの小規模な世帯なども視野に入っている。


「家電メーカーが作るホットプレートとは違う外観になったのではないか」とエレコムの商品開発部デザイン課デザイナーの佐伯綾子氏は言う。
自分たちが欲しい家電を開発
開発のきっかけは、スマートフォンケースやマウス、キーボードなどを手掛けるデザイナーたちが集まり、「家電で何か新しい提案ができないか」と議論したことだという。
その場にいたデザイナーは、偶然にも一人暮らしばかり。そこで、自分たちが本当に作りたいものを作ろうと、社内の各領域を横断したデザインチームを結成した。18年夏にはチームとして新しい企画を立ち上げ、最終的には4人のデザイナーと生産・技術担当、品質管理担当を含めた6人で、自社にない新しいカテゴリーを目指して開発した。
自分たちが毎日使いたいものを突き詰めると、ホットプレートが出てきたという。「食事の最後まで温かいプレート」という理想を掲げ、既存の技術やコストとの兼ね合いもある中で、「四角いホットプレートではなく丸い皿のようなホットプレートにする」「食べる人が座った状態でホットプレートを見下ろしたときに、下にあるIHヒーターを見えないようにする」などにもこだわった。



検索性も重視したネーミング
開発には約3年かかった。モックアップ作りに1年で、設計と具現化に1年。最後の1年に、社内に家電の開発経験者が所属する専門チームが別にでき、開発体制が整った。安全面の確認のためにスキルを生かしてもらったという。
開発のポイントは「なるべく要素を減らすこと」だった。例えばプレートには縁に「やけどちゅうい」という文字を浮き彫りにしている。ユーザーの安全面に配慮するためだが、4文字の漢字で「火傷注意」などと書いてしまうと危険性ばかりが目につき、生活空間になじみにくい。理想は何も書かないことだが、エンジニアの意見を聞きながら1つずつ落とし所を見つけ、改良を重ねていったという。

Makuakeで得た気づきも少なくない。初めはプレートではなく「クッキングプレート」と呼ぼうとした。しかし新しい言葉を使うと検索性が低くなるため、Makuakeからは「ホットプレート」という言葉を使ったほうがいいと助言をもらった。常に新しいものを探しているMakuakeの顧客とのコミュニケーションの取り方の勉強にもなった。
「これまでのホットプレートの概念から外れて、温かいお皿『ホットディッシュ』という新たな定義をつくりたい」とエレコム商品開発部デザイン課デザイナー、鹿野峻氏は言う。




(ライター 丹野加奈子、画像提供 エレコム)
[日経クロストレンド 2022年5月11日の記事を再構成]
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