ノンアルコール飲料躍進の年 飲む人飲まない人が共存

個人的な話で恐縮だが、2020年の正月以降、グルメ記者でありながらアルコールを飲まない生活を約2年間続けている。筆者の「卒アルコール」と、新型コロナウイルスまん延防止に伴う飲食店でのアルコール類提供制限の時期がはからずも重なった。この間、ノンアルコール(アルコールテイスト)飲料は質量ともに充実し、アルコールのない食生活に違和感を覚えることはなくなった。
21年の飲食をめぐるトピックとして、ノンアルコール飲料は最もふさわしいものの1つと言える。実際、ぐるなび総研(東京都千代田区)が飲食の分野でその年の世相を反映する「今年の一皿」に、コロナ禍に見舞われた今年は「アルコールテイスト飲料」が選ばれた。「多くの飲食店で提供され経営の救世主となり、今後の日本の食文化として定着する可能性がある」というのが授賞理由だ。
いわゆるノンアルコールビールは既に市民権を獲得しており、飲食店のメニューに当たり前のように載っている。筆者も最初の乾杯に飲むのはもっぱらノンアルコールビール。周囲が普通のビールを楽しんでいる中で、もはや浮くことはない。
ノンアルコールビールにとどまらず、20年、21年のアルコール提供制限下で様々なジャンルのノンアルコール飲料が花開いた。アルコールテイストのカクテルである「モクテル」や、ノンアルコールのワインが急速に広がった。グルメクラブでも「バーでノンアルハイボール? 『モクテル』の波が到来」や「ワイン大好きイタリア 次はノンアル・スパークリング」「ノンアルコールワインおすすめ4選 ピッタリ料理も」などの記事を掲載した。

さらに、アルコールを客に出せない中で、飲食店やメーカーが食事に合うノンアルコール飲料を必死で研究し、結果として料理と飲み物の新しいペアリングが生まれてきている。発明は制約の中で生まれるというのは本当だ。
飲まないシェフが追求するノンアル飲料と料理の新しい関係
今年の一皿の授賞式のトークセッションに参加したレストラン「Ichii」(イチイ、東京都港区)のシェフ堀内浩平さんも、料理とノンアルコール飲料の新しい関係を追求する一人。出身地山梨県の食材を生かした創造的な料理を生み出す堀内さんは、自身もアルコールを飲まない。最近はフルーツで有名な山梨ならではの食材やハーブなどを生かしたノンアルコールの飲料を開発し、料理に合うコンブチャなども店で提供している。「アルコールテイスト飲料に合わせた料理を作るという楽しみが増えた。幅が広がった」といい、新境地を開きつつある。

実はアルコール離れはコロナ以前から静かに広がっていた。19年の厚生労働省の調査では、アルコールを「飲まない(飲めない)」「ほとんど飲まない」「やめた」人は合計で55.1%。今や半数以上がアルコールを飲まない。20年5月に出版された「ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!」(藤野英人著 日本経済新聞出版)は、ノンアルコールの品ぞろえを充実させたり、アルコールを飲まない「ゲコ」が入りやすい店作りを進めるたりすることで、3000億円以上の新たな市場創出が見込めるとしている。
同書は、職場における「飲みニケーション」が重宝された時代があったのは事実としながら、職場におけるダイバーシティが進む中で、強制的な飲みニケーションは時代遅れであるとバッサリ。その上で、アルコールを飲む人と飲まない人が互いのスタイルを尊重し合うことが大切なのではないか、というメッセージを投げかけている。
本の中で紹介されているミシュラン一つ星フレンチレストラン「sio」(シオ、東京都渋谷区)では、コース料理にアルコール飲料のペアリングだけでなく、ノンアルコール飲料のペアリングも提供していて、アルコールを飲む客と飲まない客が同じテーブルで食事を楽しむ光景が見られるという。
ノンアルコール飲料は飲食店で頼んだり、小売店で買ったりするだけのものではなく、自分でつくることもできる。その際は、こちらの「作って乾杯!さわやかノンアルコール・カクテル」の記事が参考になる。
単なるアルコールの代替としてのノンアルコールではなく、誰もが楽しめる場をつくるための媒体としてノンアルコール飲料をとらえれば、新たな発想も広がりそうだ。前述のシェフ堀内さんとともに今年の一皿のトークセッションに登壇した、しらふを楽しむカルチャー普及のためのshirafer(シラファー)プロジェクト代表、小石川泰弘さんは21年を「(ノンアルコール飲料が)脇役から主役になった1年だった」と評価。22年以降もノンアルコール飲料の価値はさらに高まっていくに違いない。
(グルメクラブ編集長 桜井陽)
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