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女性の老後、資産運用を ADB副官房長・児玉治美

ダイバーシティ進化論

NIKKEI STYLE

2019年、金融庁のワーキンググループが「老後の30年で約2千万円が不足する」という試算を出し話題になった。年金などの収入から支出を引くと、毎月約5万5千円の赤字になるという数字に基づく。これはあくまでも夫婦が2人で暮らす場合の平均的なケースだが、自営業者等が受け取る国民年金の場合、受給額が厚生年金の半分以下となり、さらに不足する。

この状況は女性にとってはかなり厳しい。女性が受け取れる公的年金の平均は、特に厚生年金では男性よりだいぶ少ない。投資信託協会の報告書によると、60代の女性で保有金融資産1千万円未満なのは未婚で約6割、既婚で5割近くに上る。年金や貯蓄だけでは老後の資金は賄えない。

現在、50歳の女性の3割は配偶者がいないことや、女性の平均寿命が男性より長いことを考えると、女性自身が老後に備えて資金を蓄えることが重要だ。しかし、女性はキャリアを通じて男性よりも給与の上昇が鈍く、特に40代以降は給与がほとんど上昇しない。

給与のほか、既婚女性は低所得の方が当面有利になる税制・社会保障制度の実態を改善することが急務だが、同時に女性が資産運用で収入をアップすることが大きな解決策となる。

私は出産を機に資産運用を始めた。この15年で浮き沈みはあったものの、全体として元本を3倍近く増やすことができた。3カ月に1度、米国にいるファイナンシャルアドバイザーと話をし、景気動向などに応じてリスク分散している。給与だけでは老後が心配だが、資産運用のおかげで十分な準備ができている。

日本人は家計金融資産の半分以上を現金や預金として持っている。一方米国人は半分以上を運用リターンが見込める株式や投資信託として保有しており、米国人の家計金融資産は20年で3倍に増えた。また欧米では、子どもの頃から金融教育を行い、お金の管理の仕方について知識を身につけている。

日本人の多くは投資をギャンブルの一つのように捉えているが、日本でも税制優遇、少額での積み立て投資ができる制度もある。超低金利時代、お金を銀行口座に眠らせるだけでは増えないし、物価が上昇すると貯金は目減りする。貯蓄や年金だけに頼らず、資産運用を行うことが、女性が国やパートナーから経済的に自立して生きるためにも必要なことだと思う。

児玉治美
アジア開発銀行(ADB)副官房長。国際基督教大学修士課程修了。国際協力NGOジョイセフにて東京本部やバハマに勤務した後、2001年から国連人口基金のニューヨーク本部に勤務。08年からADBマニラ本部に勤務。19年から21年までADB駐日代表を務めた後、21年10月から現職。途上国の子どもを支援するプラン・インターナショナル・ジャパン評議員。

[日本経済新聞朝刊2023年2月20日付]

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