女性40代からの転職 「やりがい」重視が成功のカギ
転職は35歳が限界――そういわれたのも今や昔。40代以降に転職する女性が増えている。総務省の労働力調査によると、2022年の女性の転職者163万人のうち45歳以上が占める割合は37.4%で、17年より5.1ポイント増加した。日経ウーマノミクス・プロジェクトが実施したアンケート調査から、40代以降の転職の理由や失敗・成功の分かれ道を探った。
転職理由のトップ「仕事にやりがいがない」
「若手社員が多く、仕事の進め方やスピードに対する価値観が覆される。学ぶべきことが多い」。40代後半で人工知能(AI)開発を手がけるベンチャー企業に管理職として転職した女性(48)はそう話す。元の会社は大企業だったが、男性優位の社風で意思決定も遅いと感じていた。「このまま50代になったら『使えない人』になってしまう」。そんな危機感を抱き、40代での転職を決意したという。
1月中旬にウーマノミクス・プロジェクトが実施した調査では、40代以上の女性812人が回答した。40代以降に転職したことがあるのは320人(39.4%)だった。転職の理由としては「(仕事に)やりがいがない」が23.4%と最も多かった。

「自分は駒のひとつにすぎない」。都内に住む女性(47)は、大手のIT(情報技術)企業に勤めていた際、そんな思いを抱えていたという。「仕事全体のごく限られた分野しか担当できなかった」
やりがいを求め、40代後半で中小企業に転職。「今はアプリケーションからインフラ、サポートまで管轄し、視野が広がった。挑戦が必要だが、その分得るものも大きい」と話す。自由回答でも「仕事の内容がやる意義の感じられない方向に進んでしまい、作業にも飽きてしまった」(43歳・医療)、「一番の理由は仕事へのやりがいを求めていたから」(50歳・その他製造)などの声があがった。
2番目に多かった理由は「会社の将来が不安」と「転職後の仕事に魅力を感じた」で共に20%。次に「人間関係に不満」「仕事がハードすぎる」が15.6%で続いた。コロナ禍による仕事の減少や勤め先の業績悪化などで、やむを得ず転職した人もいた。

転職「成功」が6割、失敗の理由は「人間関係」が最多

40代以降での転職、成否はどうだったのだろうか。「成功だった」と回答したのは58.1%、失敗だったと思う人は6.9%で、成功ととらえている人が多かった。
成功だったと回答した人のうち59.7%は、理由として「仕事のやりがい」をあげた。「小規模の会社だが、20年近く築いてきた仕事の経験やスキルが生かせている」(41歳・コンサル・会計・法律関連)、「勤務時間は増えたが、やりがいが格段にあがり年収も増えた」(47歳・建設)。会社の規模が縮小したり、勤務時間が増えたりしても「仕事への手応えや達成感」が、40代以降の転職満足度をアップさせているようだ。
一方、転職に失敗したと考える人の理由で最も多かったのは「人間関係」(59.1%)だった。「ハラスメントをたびたび受けている」(55歳・コンサル・会計・法律関連)、「陰湿な人がいるので、職場に行くのが嫌」(44歳・その他製造)、「リーダーが代わって残業代も実質付きづらくなった」(52歳・その他)などの声があった。
人材紹介サービス「エンエージェント」責任者の藤村諭史さんによると、40代の転職が「失敗」する理由では(1)人間関係でつまずく(2)働きやすさを求めすぎてやりがいが見いだせなくなる(3)給与で選んで想像以上に仕事がハード――の3つが多いという。
都内に住む47歳の女性は、面接の際、直属の上司を確認し「この人なら」と思い入社した。だが入社後すぐにその上司が退職。後任の上司とはそりが合わずに苦しんだという。エンエージェントの藤村さんは「仕事内容やどう成長していきたいのか、どのようなやりがいを大切にしていきたいのかなど『変わらない軸』で転職先を判断することが大事」とアドバイスする。
給与は5割超が「上がった」
調査では給与や役職の変化についても尋ねた。給与が上がった人は54.4%、下がった人が32.5%、変わらないが13.1%と、収入増につながった人が多かった。非管理職から非管理職に転職したのが62.8%、管理職のまま転職したのが15.3%だったが、非管理職から管理職になった人も11.3%いた。
自動車関連企業に勤める愛知県在住の女性(47)は、40代で2回転職した。1回目は専門商社で課長職に就いたが、上司と現場の板挟みになり疲弊。組織を動かすには地位が必要と再び転職活動をし、部長格で働ける企業を選んだ。「人間関係や実績がリセットされたところから、管理職として信頼を得るために行動するのでエネルギーを要する。ただ転職しないと見えない景色もある」と振り返る。
成果への焦りは禁物
40代以降での転職が増えている背景には、人手不足や女性の管理職比率目標の設定などがある。エンエージェントの藤村さんによると、管理部門やエンジニア部門で経験を積んだ人、または管理職として働いてきた人のニーズが高いという。
入社後は「即戦力として、すぐにパフォーマンスを発揮しなければ」と焦ってつまずく人もいるという。転職者が早期に組織になじみ、活躍できるよう支援する「オンボーディング」を重視する企業も増えているが、藤村さんは「転職者は成果を焦らず、まずは会社の風土や、既存の社員との相互理解を深めることが重要だ」と話す。
(砂山絵理子)
[日本経済新聞朝刊2023年2月20日付]
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