巨大産業遺構がテーマパークに 循環型経済の象徴

ルーマニア中部に広がるトランシルバニア地方の地下およそ100メートルに、黒、白、灰色の層が岩壁に沿って波打つ大きな洞穴がある。古代、この地域は海に覆われていた。しかし海は遠い昔に干上がり、ある鉱物が洞穴の壁の縞模様(しまもよう)として残った。岩塩だ。

岩塩採掘地の今
岩塩の採掘は1075年に始まり、この地域に大きな恵みをもたらした。現在はサリーナ・トゥルダという名で知られているこの岩塩坑は、1932年に閉鎖されるまで徐々に掘り広げられていった。今、残された巨大な地下空間はアミューズメントパークとして生まれ変わり、訪れる人々を楽しませている。


サリーナ・トゥルダは産業用地が公共スペースとしてよみがえった一例だ。ナショナル ジオグラフィックの写真家、ルカ・ロカテッリ氏がこうした施設に関心を持ったのは、ごみをなくし、永久にリサイクルを繰り返すいわゆる循環型経済の構想をリポートした2020年3月号の特集記事「世界からごみがなくなる日」の取材中だった。「土地は限りある資源なのです」とロカテッリ氏は言う。

産業活動が残した爪痕が修復されるには何十年もの月日が必要だ。しかし産業用地のなかには、サリーナ・トゥルダのように修復不可能なほど変えられてしまった場所もある。そこで地球の限りある資源を守るには、別の目的のために再利用することが重要になってくる。


環境リスクを伝える
汚染された環境でさえも、産業活動の環境リスクを伝える遺物として「再利用」ができる。その一例としてロカテッリ氏は「フェロポリス」を撮影している。フェロポリスとは、ドイツの都市グレーフェンハイニヒェン近郊にある露天掘りの炭鉱跡だ。地表は洗浄されコンクリートで覆われているが、石炭産業が環境にもたらした影響は否定できない。


ロカテッリ氏の写真に写るのは、かつて地球の資源を採取した巨大な重機群の周りで、色とりどりのライトに照らされて踊る人々だ。あたかも番兵のようにそびえ立つ掘削機は、この土地が炭鉱だった名残だが、同時に環境に優しい未来への願いを込めたモニュメントにも見える。

(文 Maya Wei-Haas、訳 三好由美子、日経ナショナル ジオグラフィック)
[ナショナル ジオグラフィック日本版 2022年12月16日付]
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。