「さしすせそ+レ」ポッカサッポロ社長が目指す合言葉
ポッカサッポロフード&ビバレッジ 征矢真一社長(下)

「ポッカレモン」で知られるポッカコーポレーションと「Ribbonシトロン」などの飲料を販売していたサッポロ飲料が2013年に統合しスタートしたポッカサッポロフード&ビバレッジ(以下ポッカサッポロ)。ポッカサッポロ現社長の征矢真一さんが社風の異なる両社を統合する上でのキーワードは「両社の共通項」だった。新型コロナウイルス禍にあってもポッカサッポロの主力事業のひとつ、レモン関連の商品は3年連続で過去最高の販売量を記録、統合効果も上がってきた。健康志向や在宅ワークの普及で自宅で料理やお菓子作りに励む人たちが増えた今、「さしすせそ」(砂糖、塩、酢、しょうゆ、味噌)の5つの基本調味料にもう一つ「レモン」のレを加え、合言葉にしていこうと意気込む。前回に続き征矢社長に聞いた。
――ポッカコーポレーションとサッポロ飲料との統合は一筋縄ではいかなかった、とうかがいました。
草食系のサッポロと肉食系のポッカをいかに一つの会社にまとめ上げていくか、長時間、頭を痛めたのは事実です。でも「両社の共通項は何か」を探すことで、次第に一条の光がさしてきました。サッポロには長年、開拓者精神が社内に息づいており、創業から60余年のポッカも「パイオニアスピリット」をうたい、世にない商品を作り出していこうという創業者の夢があった。そこが両社の共通点ではないか、と気づいたのです。
「見つける力」「引き出す力」「発想する力」の3つの力とお客様との絆を大切にしながら、毎日の生活に彩りと輝きを加え、新しい「おいしい」を次々生み出し続ける――ポッカサッポロが掲げる経営ビジョンは、新しいものを生み出していくためにどんな力が必要か、を考え、社員同士が協力することに重きを置いたもので、私が2年ほどじっくり考え抜いた末の結論でもあります。
自分ひとりだけでとか、自分たちだけでとかは今の時代、通用しません。パートナーと一緒に共創していくことこそが求められている。そう私は考えています。飲料メーカーの場合、委託先に商品を作ってもらっているケースが多く、その委託先を「パッカー」と呼ぶことが多いのですが、社内では今、この言葉を廃絶しようという取り組みを進めています。同じように「業者」「仕入れ」といった言葉は使わずに「パートナー」と言うよう徹底しています。社員には一緒に商品を作ってくださる仲間という意識を持ってもらいたいからであり、当社が商品を供給できるのはパートナー企業の方々のおかげでもあるからです。そのつながりが大切だと思っています。
これまで仕事の中で、私はM&A(合併・買収)も手がけてきました。痛感するのは、お金をたたきつけるだけでは会社の買収など無理だということです。お互いとことん議論し、最後に相手が「わかった、一緒にやろう」となって初めてうまくいきます。新しいものを見つけたり、発想したりする作業はみんなの力を集約してこそなせるもので、お互いの気持ちを通わせない限り、無理。これまでのキャリアの中で私はそう学び、実践してきたつもりです。

――コロナ禍ですが、予防や免疫に対する意識の高まりを背景にレモン事業は好調のようですね。
ポッカサッポロの主要レモン商品ブランドである100パーセントレモン果汁「ポッカレモン100」の販売数量は前年同期比で107パーセント、飲料の「キレートレモン」は同120パーセントを記録し、おかげさまで2019年度から3年連続で過去最高を更新しています。ポッカレモン100はレモンサワーの割り材として利用されたり、料理に用いられたり。キレートレモンに関しても疲労感を軽減するクエン酸が2700ミリグラム入った「キレートレモン クエン酸 2700」を中心に好調です。
料理にお菓子作りにレモンが活躍
コロナ禍でより一層、健康意識が高まったことに加え、調理に対する興味も背景にあると感じます。在宅ワークの広がりで、家で料理をしたり、お菓子作りをしたりする機会が増え、その際、レモンを活用している消費者像が浮かんできます。レモンは塩の代替品にもなります。調味料の「さしすせそ」と言えば砂糖、塩、酢、しょうゆ、味噌の5つですが、そこにレモンの「レ」を加え、これからは「さしすせそレ」が合言葉になるような社会にしていきたい、と考えています。
健康軸でいえば、レモン事業ともう一つ、「プランツミルク」事業も今後、成長が期待できる分野と位置づけています。具体的には豆乳や豆乳ヨーグルト、アーモンドミルクやアーモンドミルクヨーグルトのジャンルです。「乳」中心からシフトし、植物性のたんぱく質に今、焦点が当たるようになっています。ポッカサッポロのこの分野は、実は豆乳事業を手がけていたトーラク(神戸市)さんから15年秋に事業譲渡を受けたものです。新たな事業をイチから立ち上げるのは大変で、私は以前からこの分野はおもしろそうと思っていて、着目していた会社でした。
プランツミルク事業は「チルド」と呼ばれる領域で、毎日配送が伴います。ペットボトル飲料や缶詰などストックできる「ドライ」と呼ばれる商品群とはビジネスの根本が異なります。ポッカサッポロはチルドの領域に関し、知見がまだ乏しいので昨年11月にヤクルト本社と国内事業に関し業務提携し、毎日のように配送業務を手がけ「日配ビジネスの王様」であるヤクルトさんからいろいろビジネスを学ばせてもらいます。
――ポッカサッポロの主要事業はレモンとプランツミルクのほかに、飲料とスープがありますね。こちらの分野については、どうお考えでしょう。
ポッカサッポロが目指しているのは「両利きの経営」です。レモンとプランツミルクは今後、成長が期待できる分野です。一方、飲料とスープに関しては、自分たちが得意とするものにもっと注力していきたい、と考えています。「じっくりコトコト」ブランドのスープは粉末タイプだけでなく、缶入りの液体スープも販売しています。液体の「じっくりコトコト煮込みスープの素(もと)」は水とスープのもとを1対1の割合で鍋に入れ、さらに冷蔵庫の残り野菜をお好みで加え、中火で5~10分煮込めば出来上がりです。追加で残り野菜を加えれば、フードロス問題の解消にもつながります。

具材を入れ込んだ液体スープは作るのが実は難しく、普通の食品会社はなかなか手がけません。ポッカサッポロが液体スープもラインアップに加えているのは、飲料もやっているからに他なりません。飲料分野で培った製造ノウハウを液体スープに生かしているからできるわけです。自社の知見を掛け合わせてできる新商品をもっと増やしていければ、と思っています。
飲料に関しては「加賀棒ほうじ茶」や「熊本玉露入りお茶」「北海道余市の白ぶどうソーダ」や「宮古島ハイビスカスティー」などご当地に根ざした「TOCHIとCRAFT」シリーズ商品のラインアップの充実化をさらに図っていくつもりです。ビールやジンなどの分野で今、クラフトばやりですが、地域社会にも良いインパクトを与えながら支援する「ソーシャルグッド」の観点で、商品づくりに一層、力を入れていくつもりです。
――ポッカサッポロの経営ビジョンの中にも「おいしい」という言葉があります。社長にとっての「おいしい」と、これから先の食品・飲料会社としての立ち位置についてお聞かせください。
やっぱり、おいしいとは笑顔ではないでしょうか。「おいしいね」と言う時は決まってみんな笑っています。何をおいしいと感じるかは人それぞれでしょうが、その人が何かを食べて、笑顔でいるなら、それはおいしいものに違いありません。さらに加えていえば、その場がいい雰囲気であることもあるかもしれませんね。
心の健康ブランド育成ももっと
食品メーカーは人々の健康に貢献すべきだ、といわれますが、健康には体と心の両方があると思っています。「体」だけでなく「心の健康」にもポッカサッポロはもっと貢献していく必要があると感じます。スープの「じっくりコトコト」ブランドはネーミングも消費者の心に刺さっている、まさに心の健康ブランドではないかと思います。消費者の心に刺さるような商品をいかに開発していくか。この先、それがますます重要になってくる気がします。お祝いの時に使える商品が今、あまりないので、ハレの日にマッチする商品を今後、増やしていきたいですね。元来、こうした分野を担う役割は外食産業だったかもしれません。でもコロナ禍で環境は変わり、食は「外」から「内」へと徐々に入り込んできています。こうした動きにもきちんと対応していかないといけません。
1963年生まれ。千葉県出身。横浜国立大学経営学部卒業後、86年4月、旧サッポロビール(現サッポロホールディングス)に入社。2006年、サッポロビール(新会社)北海道本社・戦略企画部長、09年旧ポッカコーポレーション取締役、12年ポッカサッポロフード&ビバレッジ常務、20年同社社長に就任し現在に至る。趣味は旅行。時刻表検定1級を所持する。
(堀威彦)
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