爽やかなレモン入り 梅雨時にぴったりの缶詰3種
黒川博士の百聞は一缶にしかず(15)

レモンを使った商品が続々と発売されている。清涼飲料水にレモン味が増えたし、サワーの定番・レモンサワーも、キリンやコカ・コーラ、サッポロビール、サントリーなど驚くほど多くのメーカーが商品化している。食品ではスナック菓子やビスケット、グミ、はてはカップ麺に至るまでレモン味が増殖中だ。
既存商品も人気が高まっていて、ポッカサッポロの「ポッカレモン100」と「キレートレモン」は3年連続で過去最高の売り上げを記録し、増産に忙しい。そんなレモンブームが缶詰業界にも波及してきた。ここ数年で、レモン入りの商品が少しずつ増えてきたのだ。折しも梅雨時で、じめじめとした日々が続く。爽やかなレモン味の缶詰をいただくには絶好の時期であります。

極洋が今年1月、「サッカー日本代表オフィシャルライセンス商品 さば水煮 レモンプラス」というサバ缶を発売した。レモンを使ったサバ缶だが、それよりもまず商品名にある「サッカー日本代表オフィシャルライセンス」という文言が気になった方も多いのではないだろうか。
このサバ缶は実は公益財団法人日本サッカー協会(JFA)が公認したライセンス商品。だから缶のデザインに「SAMURAI BLUE」の青色と、勝利をイメージした金色が配色されている。JFAのロゴが印刷されているのも、サッカーファンにはうれしいポイントだろう。
肝心の中身だが、サバは身が厚くて脂が乗っている。製造を担っているのが岩手缶詰(岩手県釜石市)なので、三陸産のいい原料を使っているのだ。レモンは濃縮果汁が使われていて、予想以上に風味が強い。ただし味付けに砂糖が使われているから、甘酸っぱくて後を引く味であります。

さば水煮レモンプラスは缶汁もおいしくて、オリーブ油などを加えれば、それだけで甘酸っぱいソース(もしくはドレッシング)になる。僕が試したのはパスタ料理で、缶汁にオリーブ油とレッドペッパーを加え、それで茹(ゆ)でたペンネを味付けした。焼き野菜も加えたので、この1皿でバランスのいい栄養がとれそうだ。
このサバ缶をJFAが公認したのは、アスリートに必要なタンパク質、カルシウム、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)などの栄養素が手軽にとれるから。爽やかなレモンの味付けは、魚が苦手な子供でも食べやすいと思う。

蒸し暑い日のおつまみにもオススメ
グルメ缶詰を造っているヤマトフーズ(広島市)は、広島県が国産レモンの一大生産地ということもあり、レモンを使った「レモ缶」シリーズを2015年から展開している。缶詰業界ではレモン味のパイオニアとも言える存在であります。
「レモ缶 北海道ほたて レモンバター風味」もその1つで、味付けにはレモン果汁だけでなく、特製の塩レモンも使っている。レモンの皮と果汁、塩を混ぜて熟成させた塩レモンは、単純な酸味だけでなく、柔らかい塩味とほろ苦さがある。
レモ缶シリーズは、これまでカキ、ムール貝、小イワシなど広島産の魚介類を使っていたが、この商品で初めて北海道産のホタテが使われた。同社では「ご当地コラボ商品」と呼んでおり、今後も他地域の素材を使った商品がお目見えしそうで楽しみだ。

「レモ缶 北海道ほたて」の特徴はバターも加えている点。加熱したバターの芳醇な匂いが食欲をそそるし、バターといえば北海道というイメージも強い。そこで、より北海道色を強めるために茹でたアスパラガスを合わせてみた。
レモン&バターにホタテのうまみが加わった缶汁がウマい。ホタテは柔らかく、かつシャクシャクと心地良い歯触りがある。もちろんレモンの爽やかさも味わえるから、蒸し暑い日のおつまみとして最高であります。

スライス状でそのままに
最後はちょっと変わった出自の缶詰をご紹介したい。アウトドア企業「パタゴニア」の食品事業部「パタゴニア・プロビジョンズ」のアイテム「スパニッシュ・ホワイト・アンチョビ レモンオリーブ」であります。
パタゴニアは環境保全への取り組み方が先進的な企業で、この缶詰にもその姿勢が表れている。使っている魚はカタクチイワシで、食物連鎖ピラミッドの下位にいる(つまり個体数が豊富な)魚種だ。それだけでなく、乱獲や混獲(狙った魚以外の魚類が交ざること)を防ぐため、小規模の網で捕獲するなど、漁法も持続可能な方法を採用している。今はSDGs(国連の持続可能な開発目標)が合言葉のようになっているが、同社はそれに先駆けて、こうした食品を製造してきた。
スパニッシュ・ホワイト・アンチョビには2種類の味付けがあり、「レモンオリーブ」にはオリーブの実とレモンが入っている。しかもレモンはスライス状態で入っているのがすごい。果実そのものを使った缶詰は極めて珍しいのだ。

イワシの缶詰はパスタの具にしてもおいしい。「スパニッシュ・ホワイト・アンチョビ レモンオリーブ」も、茹でたパスタに缶汁ごと混ぜ、塩やスパイスで味を調えれば缶成(完成)であります。スライスしたオリーブの実も入っているから、他に食材を加えなくても本格的な一品になる。アウトドア企業のパタゴニアのグループ会社が手がける缶詰だから、キャンプメニューにしてもぴったりだ。
当初、僕は缶詰ではレモンの風味があまり味わえないと思っていた。缶詰は高温で加熱するため、酸味と香りが薄まってしまうと予測していたのだ。しかし今回の3缶は、どれもいい意味で期待を裏切ってくれた。さば水煮レモンプラスは思ったよりも酸味が利いているし、レモ缶北海道ほたては、バターと合わせたことでムニエルのような味になっている。スパニッシュ・ホワイト・アンチョビ レモンオリーブは、レモンだけでなくリンゴ酢も加えてあり、爽やかな酸味が味わえた。
他にも紹介しきれなかったレモン味の缶詰がある。10種類以上の商品が現在、発売されているので、ぜひお好みのものを見つけて味わってみてほしい。
※商品の価格は税込み
(缶詰博士 黒川勇人)
1966年福島市生まれ。東洋大学文学部卒。卒業後は証券会社、出版社などを経験。2004年、幼い頃から好きだった缶詰の魅力を〈缶詰ブログ〉で発信開始。以来、缶詰界の第一人者として日本はもちろん世界50カ国の缶詰もリサーチ。公益社団法人・日本缶詰びん詰レトルト食品協会公認。
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