着たいもの着る自由を手に ADB副官房長・児玉治美
ダイバーシティ進化論
2022年、最も印象に残ったニュースにイランでの反政府デモがある。9月、ヒジャブ(髪を隠すスカーフ)の着用をめぐり風紀警察に拘束された女性の急死を受けて全国的な抗議行動が起こり、今も続いている。
1979年のイスラム革命以来最も長いデモの最前線に立つのは女性たち。道端でヒジャブを脱ぎ、燃やしたり髪を切ったりして、命がけで宗教上の戒律に基づく法を破り、自由や人権の尊重を求めている。
女性が変革を求め立ち上がったケースは歴史上数多い。55年前、米国でミスコンに反対した女性らが、抑圧の象徴である口紅やハイヒール、ブラジャーをゴミ箱に捨て、外見にとらわれない自由を主張した。「ブラジャーを燃やすフェミニスト」のイメージがアイコン化された事件だった。
日本でも2019年に始まった#KuToo運動が記憶に新しい。「靴」と「苦痛」を掛け合わせた造語で、職場でのハイヒール着用の義務付けに抗議する運動である。ハイヒールによる健康被害や女性だけに苦痛を強いる差別的扱いに焦点が当てられ、国会でも取り上げられた。

日本には服装を取り締まる風紀警察はいないが、着たいものを着る自由があるとは言い難い。学校では髪形や服装について細かい規定があり、男女に別々のルールが課される。私が通った米国の高校では外見についての校則が全くなかったが、海外では珍しいことではない。現在息子たちが通うフィリピンの学校でも自由度が高く、トランスジェンダーの中学生が堂々と好きな格好をしている。
日本での就職活動や職場にも、女性特有の服装規定がある。一定の高さがあるパンプスやストッキングの着用義務のほか、女性のみに化粧をすることや制服着用を求める会社・職種も多く存在する。
女性に外見的な美しさを求める一方、同調圧力により皆同様の格好をすることがマナーや身だしなみとして正当化される。#KuTooや大学のミスコンなど、女性の服装や外見をめぐる日本の風潮を、海外メディアも度々否定的に報じている。
パンプスを好んではく人も多いだろうが、苦痛に感じるなら、自分らしさを表現できないなら、やめればよい。みんなが窮屈に思うマナーはなくせばよい。女性も男性もLGBTQ+の人も、好きなものを着る自由を手にすべきだ。

[日本経済新聞朝刊2023年1月16日付]
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