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東日本大震災から11年 復興の教訓を平時の制度に

NIKKEI STYLE

東日本大震災から11年がたちました。岩手、宮城両県ではインフラの復興にひと通りメドがつき、福島県の原発事故被災地でも帰還困難区域で住民の帰還が今年から本格化します。ただ復興と風化は裏表です。震災と復興の過程で得られた教訓を平時の制度に生かすことが求められます。

3月11日、これまで東京で開いてきた政府主催の追悼式は行われず、岸田文雄首相は福島県を訪れて県主催の追悼式に出席しました。被災地の中でも追悼式を催さない自治体が出てきています。

2021年12月には、仙台市から青森県八戸市まで津波の被害を受けた沿岸部を結ぶ三陸沿岸道路が完成しました。3県それぞれの内陸部と沿岸部をつなぐ復興支援道路と合わせ、いざというときに沿岸部を救う道路網が整いました。宮城と岩手のインフラ整備はひと区切りついたことを印象づけます。

福島の復興も転機を迎えます。将来にわたり戻れないとみられていた帰還困難区域の一部で春以降、住民の居住が可能になるためです。22年度に大熊町、葛尾村、双葉町、23年度には浪江町、富岡町、飯舘村で居住が始まることになっています。

被災自治体で唯一、まだ1人も住むことができていなかった双葉町でも、6月以降に役場を戻し、災害公営住宅を整備して11年ぶりに町内に住民が住み始める見通しです。ようやく復興へ一歩を踏み出せるところまで来たといえます。

復興が新段階に入ることは、これまでの復興政策を検証、評価する時期といえます。中小企業の事業再開に国が資金を出したグループ補助金は目玉政策のひとつですが、今、その返済に苦しむ企業が増えています。課題を分析し、今後の災害などでよりよく使えるよう見直すべきでしょう。

震災や復興の過程で浮かび上がった教訓をどう生かすかも問われます。被災地に詳しい東北大学の河村和徳准教授が挙げるのが避難者の住民票のあり方や行政のデジタル化です。

原発事故被災地の人々は、住民票の異動や納税を免除されて避難先で行政サービスを受けていますが、長期化するにつれ、受益と負担のあり方を問う声も出ています。新型コロナウイルス下で広がる二地域居住の課題とも共通しており、被災時にも平時にも活用できる新たな制度として考えてよいかもしれません。

宮城や岩手の県議会は震災からしばらく議会庁舎が使えず、青空議会などを開いていました。非常時のルールを制度化しておけば、コロナ下で参集できなくてもオンライン議会などで対応できたでしょう。

河村准教授は「被災地の教訓を踏まえ、平時から生かせる制度を整えて新しい日本の姿をみせていくことが真の復興であり、本当の意味で被災者に寄り添うことになる」と話しています。

河村和徳・東北大学准教授「復興に民主主義、市場原理の視点を」

これからの東日本大震災の復興の課題は何か。被災地の実情を調査してきた東北大学の河村和徳准教授に聞きました。

――10年間の復興期間が終わり、被災地の状況に変化はありますか。

「宮城、岩手両県では県と沿岸部の被災市町村の間にギャップが生まれている。沿岸部の市町村は内陸部への人口流出に悩んでいるが、県全体の人口に影響は少ないため、県の対応は鈍い。沿岸部では三陸沿岸道路の開通で商圏の再編も起きている。復興で期待した効果を得られている人と得られていない人の断絶が大きい」

「10年たった今、非常時に導入した復興政策を一度、整理する時期だろう。例えば、中小企業向けのグループ補助金は見直すべきだ。事業規模を縮小してそれほど資金を借りなかった企業はうまくいっているが、借りすぎたところは利払いに苦しんでいる。国の肝煎りで始め、地元の金融機関も後押ししたためだ。リアス式海岸の小さな入り江の漁港も多くを元に戻したが、加工業は戻らず、漁師は離れた居住地から通いで漁をしている。こうした復興政策の評価が必要だ」

「福島県は『風化』と『風評』という2つの風に悩まされている。原発事故で沿岸部の浜通りから内陸部に避難している被災者と、被災していない住民の分断が激しくなりつつある。被災者は原発事故の被害の風化を懸念するが、内陸部ではそうした声が残ることで農産物への風評被害を懸念する。少数の避難者の声が多数派であるかのように扱われ、避難者は風評を振りまいて分断を生んでいるという批判もある。民主主義のもとで復興を進めていくには、こうした住民の意識に応じた仕組みに光を当てていく必要がある」

「原発事故の避難者には、住民票を避難先の自治体に移さなくても住民サービスを受けられるよう原発避難者特例法が制定されている。ふるさとの自治体と絆を保つため、避難先の自治体に税金を納めなくても生活に支障がないようにする措置だ。国は避難先に財政支援をするが、受け入れ側の負担は増える。原発のある双葉郡から多くの避難者を受け入れたいわき市は、中核市で財政に比較的余裕があり、避難者よりいわき市の住民の方が多数派だった」

「しかし、首都直下地震や南海トラフ地震では、受け入れる側が少数の場合が出てくる。第2次大戦での疎開は、地方の方が食料事情がよかったから成り立ったが、都市部から想定以上の避難者が来れば、今の地方に受け入れる力はない。財政面は国が支援するとしてもマンパワーは足りないだろう。地方に避難して10年たっても帰らず、住民税は払わないという状況が容易に想像できる。避難者が多数になった地方で住民サービスをどう維持するか。国の財政支援をいつまで続けるか。こうした民主主義の下での復興という視点がこれまでは欠けていたといえよう」

「これは新型コロナウイルス下で広がってきた二地域居住の問題にも通じる。都市に住民票を置きながら一定期間、地方で暮らすライフスタイルが定着すれば、納税の負担と住民サービスに応じた税の負担をどうするかという問題が大きくなってくるからだ」

「いつまで被災者かという問題もある。被災者が住民票を移さないのは、被災自治体に住民票がないと、賠償など被災者向けの支援から切り離されてしまうという不安があるためだ。被災者であることは重要であり、住民票を移すと被災者でなくなってしまうという機微な部分も整理していかなければならない。復興での気づきを平時の制度変革につなげていく必要がある」

「第1期復興期間の10年間は被災者や被災地を支援していくのがメインだが、第2期復興期間は当初の10年で得た教訓を平時に応用していく時期にすべきだ。住民票の問題は、コロナ後の地方制度のあり方を議論し始めた第33次地方制度調査会で検討してよい課題だ」

――行政のデジタル化の遅れも復興の支障になりました。

「被災地では窓口に様々な申請をする人たちの列ができ、トラブルが頻発していた。あのときにワンストップサービスができていれば、生活の復興は早かったと思うとデジタル化は重要だ。個人情報の扱いが自治体によってまちまちで情報を共有できず、支援が遅れた面もある。個人情報を地方が持ちながら、財政や制度は国に依存する日本のあり方は縛りが大きい」

「被災当初、宮城県議会や福島県議会は庁舎が危ないので青空議会や別の場所でやった。その教訓を踏まえてオンライン議会の制度をつくっておけば、コロナ禍にも対応できただろう。災害は民主主義をデジタルトランスフォーメーション(DX)しなければいけないという気づきを与えてくれた。南海トラフ地震が想定される自治体の中には、議会が参集できない事態に備えてデジタル化に取り組んでいるところもある」

――大規模な災害は復興に時間がかかり、その間に住民の意識が変わることが復興を難しくすることも浮き彫りになりました。

「復興のスピードについて、我々はもっと知見を集めて研究、議論しなければならなかったのではないか。東日本大震災では復興に時間がかかり、住み慣れた地域を出ていく住民が相次いだ。アルバート・ハーシュマンの古典的名著『イグジット(退出)・ボイス(告発)・アンド・ロイヤルティー(忠誠)』によれば、衰退している組織の構成員がとる道は、出ていくか、改善に向けて声を上げるかで、退出を防ぐには組織の忠誠・愛着を高めておく必要があるという。被災地の住民も同じだ」

「住民が出ていくかどうかは復興のスピード感の問題だ。阪神大震災では住民参加で時間をかける熟議が大事だと言われたが、これは神戸が出て行く人の少ない大都市であったがゆえだろう。その神戸もアジアの拠点港の座を釜山に奪われた。いったん機能を失うと、瞬時に市場から退出させられ、元に戻すのは難しい。人口流動も自由であり、その意味では復興も市場原理のもとで考えなければならない」

「福島では被災者を引き留めるため住民票だけおいておく制度を作ったが、その制度設計が改めて課題になっている。地域へのロイヤルティーの高い人を育てておけば地域に残って復興に声を上げる若い人たちも出てこよう。そこで重要なのは、年配の人たちが若い世代の提案を不寛容な形で排除しないことだ。宮城県女川町の復興が評価されるのは、60歳以上は表に出ず、若い人たちに任せたからだ。そうすれば、将来、税金を払う人が残っていく。今は人口の維持に重点を置く被災自治体が多いが、本当の復興とは納税者が維持され、担税力に見合った行政サービスを提供できる状態に戻ることだろう」

――福島の原発被災地では、戻れないとされてきた帰還困難区域に住民が戻り始めます。政府は自宅に戻るのを希望する人はできるだけ帰れるようにするとしていますが、居住区域をどこまで広げるかは難しい調整になります。

「拠点区域のようにある程度、使える土地を集約する必要がある。そこでは農地を別に確保することなども重要だろう。双葉郡などでは農地の集約をしているが、人間関係が良くないのでうまくいかないこともあるという。行政が丁寧にやろうとしていい人になりすぎると、かえって合意形成は進まない。生まれ育った土地で農業してもらいたいのはやまやまだが、難しい場合は政治が責任をとって代替地を用意するなどの仕掛けが必要だ。新しい土地に入植するという選択肢をもっと奨励していく必要があるのではないか」

――帰還困難区域に住民が住み始める大熊町や双葉町には廃炉作業中の福島第一原発があります。復興と廃炉は切り離せません。

「筑波研究学園都市(茨城県つくば市)のように高学歴者が住む仕組みを作らないと難しいのではないか。人を住まわせる形まで持っていけるなら廃炉研究拠点や国際研究拠点は意味がある。中途半端な知識をもつ人が多いほど風評を生みやすい。百聞は一見にしかずで、科学的な知識で世界に発信できる研究者が家族と住むことで、身をもって安心感が可視化され、風評を払拭できる」

「例えば、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のように国内外の研究者が住む研究拠点が望ましい。地元の人たちとも学術的で科学的なコミュニケーションを橋渡しできれば、東京とは違った新しい高学歴者の街にもなりうる。岩手県釜石市の復興の取り組みが他の被災自治体より積極的にみえたのは、新日鉄の企業城下町で高学歴の住民も多く、職員が新日鉄との仕事を通じて鍛えられたことが大きい」

「福島県浪江町のテストフィールドに行った際、中部地方の企業が関心を寄せていると聞いた。名古屋にはあまりドローン(小型無人機)を飛ばす場所がないためだという。福島県では水素の量産も始まる。トヨタが福島の水素で実証実験をやるなど、復興だけでなく、新しい挑戦の姿を見せていくことが重要だ」

「研究拠点づくりは国策だ。国策として復興を進める以上、投資の効率を高めていくために双葉郡の自治体はいずれ合併する必要も出てくるかもしれない。それでも被災地の教訓を踏まえ、平時から生かせる制度を整えて新しい日本の姿をみせていくことが真の復興であり、本当の意味で被災者に寄り添うことになるだろう」

(編集委員 斉藤徹弥)

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