甘くない第二新卒の実態 プロに聞いた転職活動のコツ

前回は、第二新卒の転職市場の広がりや、コロナ禍のなかで変わりつつある転職希望者の動向をお伝えした。第二新卒の転職は働く実感を持ったうえでキャリアを見つめ直せるのが魅力だが、希望の就職先に決まる人は多いのだろうか? 後編ではリアルな転職活動の体験談と、プロに聞いたアドバイスを紹介する。
「書類ほぼ全落ち」厳しい現実
「この先が不安で病みそう」「サイトをのぞいても全然いい求人がない」「新卒就活はすぐに内定が出たのに、書類でポンポン落とされる」
これらは最近Twitterで見かけた、第二新卒の投稿だ。転職活動がうまくいかず悩む、悲痛な声があふれていた。そもそも書類選考が通らない、という趣旨の投稿が多い。そこには、新卒就活がうまくいった人にも待ち受けている落とし穴があった。

実際に新卒1~2年目で転職活動をした人に取材すると、ツイッターの投稿を裏付けるような体験談が相次いだ。
「エージェントがつかないと書類はほぼ全落ち。基本的に全部『お祈りメール』です」と話すのは2021年4月、新卒で人材サービス企業に入社した20代前半の女性、Bさん。
「裁量権があって、自分に合っている」と思い、Bさんは大学3年生の秋という早いタイミングで就職活動を終了した。業務の幅が広いとは聞いていたが、入社してみると想像以上に厳しかった。激務で体調を崩し、入社後1カ月で退職。就職活動中の今、早期離職に対する風向きの厳しさを実感しているという。
「新卒だと面接ではプラスのことしか聞かれなかったけど、今は面接に進めたとしても『なんで新卒で会社選びに失敗したのか』『なぜ事前に会社と合わないことがわからなかったのか』など離職の理由を責められるような質問をされることがあります。今の会社を辞めたくて転職活動している人は、転職理由を前向きに変換して言わないといけないのでしんどい……。新卒ブランドがなくなると弱者だなって思います」(Bさん)
21年春、新卒2年目でファッション業界からIT業界に転職したCさん(男性)もなかなか選考に通らず苦労したという。希望していた部署と異なる現場へ配属となったことなどから、1年目だった昨年末に転職活動を始めた。まずはスキルを身につけたいとIT系に狙いを定め、「第二新卒歓迎」「未経験歓迎」とうたう会社を中心に20社ほど応募した。しかし書類選考で落ちることが多かった。
「第二新卒はもっとポテンシャル重視だと思っていました。面接ではわりと経験を問われ、転職活動は思ったより難しかったです。SaaS(Software as a Service)企業の営業職を中心に受けましたが、見送りの理由のほとんどが、営業経験がないことでした」(Cさん)
最終的にベンチャー企業2社から内定をもらったが、どちらも知人が勤めており、リファラル採用に近かったのではないか、とCさんは振り返る。
新卒採用はポテンシャルや適性を判断されるが、第二新卒はあくまで中途採用。企業によって求められるスキルや経験がまちまちで採用基準をつかみにくい。有名企業が第二新卒の採用も増やしているとはいえ、数名程度のケースが多く、新卒採用に比べると狭き門だ。新卒就活をやり直す感覚で未経験の職種や業界を志望すると、思った以上の苦労が待っているかもしれない。
第二新卒の転職希望者はどのようなことに気をつければいいのか。若手専門の転職エージェントと、企業の人事担当者に、それぞれアドバイスを聞いた。
「就活でうまくいった人ほど注意」

「第二新卒といえど未経験分野への転職は簡単ではない。新卒と中途はルールが違うので、就活がうまく行った人ほど注意してほしい」。このように呼びかけるのは、第二新卒などの採用支援を手がけるUZUZの川畑翔太郎専務だ。
10年以上、若手社会人のキャリアコーチングを手掛けてきた川畑さんによれば、転職先の業界や職種に求められる採用基準に達しているかをチェックするためには、キャリアの「縦軸」と「横軸」の掛け合わせを意識するのがおすすめだという。
・キャリアの「縦軸」:転職先の業界・職種の経験年数がどれくらいあるか
・キャリアの「横軸」:業務遂行に求められる資質が、自分の知識や技術とどれくらい一致しているか
キャリアの「縦軸」は、求人によく書いてある「○○経験が3年以上」といった要件。一方、未経験の仕事に適応できるかを判断する目安になるのは、「横軸」の方だ。
法人営業の経験者(IT未経験)がITコンサルタントを希望するケースを想定して、求められるキャリアの「横軸」を分析してみよう。
(1)仕事に求められるスキル要素を分解する
「ITコンサルタント=論理的思考力×資料作成能力×法人顧客とのコミュニケーション×ITの基礎知識×マネジメント力×情報収集能力」
(2)スキル要素の重要度を重み付けする(下図の左側の★印)
(3)自分の知識や技術がどれくらい一致するか分析する(下図右側の★印)

中途採用ではキャリアの「縦軸」に意識が向きがちだが、「横軸」も忘れずに分析することが大切だ。自分のどんな経験を横断的に生かせるかを整理することで、アピールできる材料を書類や面接でもれなく伝えられるようになるだろう。
IT業界の中でもハードルに違いがある
適性があったとしても、企業側に未経験者を採用できる余力がなければ難しいので、業界のニーズにも目を配る必要がある。川畑さんによると、現在はやはりIT(情報技術)系が未経験者を積極的に採用しているという。
特にニーズが急拡大しているのが、インフラエンジニア、開発エンジニア(SE)という職種で、「未経験OK」であるケースが多い。あらゆる産業でDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進み、需要が急増しているからだ。しかもネットワークサーバーなど業務系のシステム構築は規模も大きく、人手が必要になる。
一方、IT業界のなかでも未経験者の受け入れが少ない職種もあるので注意が必要だ。IT企業と言うと、電子商取引(EC)サイトやアプリを思い浮かべる人が多いかもしれないが、実はWebデザイナーやコーダーは実務経験や情報工学の知識が求められるのでハードルが高い。「もし希望するなら、専門学校で知識を身につける、未経験者でも採用されやすい就業形態(アルバイトや契約社員など)から実績を積むなどの選択肢も視野に入れておきたい」と川畑さんはアドバイスする。
第二新卒のポテンシャル、人事はどう見極める?
実際の面接では、第二新卒のポテンシャルをどのように見極めているのだろうか。サイバーエージェントの現役人事に話を聞いた。
インターネット広告事業本部・人事部門採用進化局の局長を務める高橋純也さんは「社風とマッチしているかに加えて、たとえ在職期間が短くても、これまでの経験をどうやって次のキャリアに生かせるかを見ています」と語る。面接で未経験者の業務適性をみるための質問例を教えてくれた。
・「業務で思い入れのある成果はなんですか?」
→仕事の規模や自分だけの成果に満足するのではなく、顧客の役に立つことにモチベーションを感じられる(=顧客志向性がある)かどうかを見極める。
・「目標を達成するためにどんな工夫をしましたか?」
→任された目標に対してどんな姿勢やアクションをとったかを通じて、営業やコンサルタントとしての適性を判断する。

「成果についてのエピソードの中で、顧客からの感謝に触れているか、本質的に役に立つことを考えているかを見ます。仕事の規模や順位だけを話すような人は良い印象を持ちません。成果が何につながっているのかを意識できていることが重要です」と高橋さんは言う。
また、志望動機についてはこう語る。「当社を希望する若手の傾向として、インターネット広告代理店最大手として蓄積されたノウハウやスキルを学びたいという人が多いですね。学びたい欲求があることはダメじゃないんですけど。学んだ上で何がしたいのか、がないと厳しいですね」
辛い現状があるとしてもネガティブな理由ばかりを並べず、目の前の仕事にどう向き合ってきたかが大事――。今回の取材で、企業関係者から共通して聞かれた言葉だ。
前回登場した、東京海上日動火災保険で人事担当の山城真さんも、向き合い方を見たい、と強調していた。「情報がありすぎてキャリアに悩みやすい時代なのかもしれないですね。でも、職場を変えたからといってバラ色の人生が待っているわけではない。自分の力でコントロールできないことも多いけれど、どうもがいたのか、その姿勢を問いたい。現職に向き合い、思いをもって働いてきた人と、そうでない人とでは言葉の重みが違います。自分に指を向けて自問自答できることが大事です」
(ライター 中山明子)
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