物質主義と宗教的伝統が共存 「極端な国」クウェート

ペルシャ湾の北端に位置する、中東の首長国クウェートは、さまざまな点で「極端な国」だ。夏の気温は世界最高水準で、降雨量は世界最低水準。淡水はほとんど存在しない。国土の大部分が砂漠に覆われ、耕作に適した土地は1%を下回る。
一方で、その砂の下には世界第7位の埋蔵量を誇る石油が眠り、クウェートの莫大な富の源になっている。ペルシャ湾岸のほかの産油国と同じように、この国もオイルマネーによって派手な消費文化が花開いた。


イタリア人写真家のガブリエーレ・チェッコーニ氏は、2019年に初めてクウェートを訪れた時、想像していた保守的な文化のイメージとあまりにかけ離れた現実を見て衝撃を受けた。同氏は以前バングラデシュで、国籍のないロヒンギャ難民を取材し、難民問題が環境に与える影響に光を当てた。その後、同じように無国籍の「ビドゥーン」と呼ばれる人々を取材するために、彼らが住むクウェートにやってきたが、そこでチェッコーニ氏は取材の方針を変えることにした。
「バングラデシュでの私の目的は、極限状態にある人々が環境に与える影響について知ることでした。クウェートでは、極限の環境が人々に与える心理的なインパクトについて取材したいと思いました」


かつてクウェートは貧しい国だった。1930年代に油田が発見される前、主な輸出品は真珠で、国民の多くは港湾取引や漁師の仕事に従事したり、遊牧民として暮らしたりしていた。エネルギー産業が発展し、1991年の湾岸戦争後に西側諸国との結びつきが強まると、少しずつ外国の価値観が入り込むようになり、それに伴って生活が豊かになった。現在、およそ130万人の国民が享受するぜいたくな暮らしは、低賃金のサービス業に従事する300万人以上の外国人労働者によって支えられている。


チェッコーニ氏の写真には、物質主義と宗教的伝統のミスマッチが写し出されている。「極端な消費は、内面の緊張を埋め合わせる一つの手段です。私たちが生きている資本主義システムの世界では、物を買えば気分がよくなるとされています。それ自体はすべての人に当てはまることですが、クウェート人が他の国の人たちと違うのは、何でも好きなことをするお金があるということです」。ある人にとってそれはフェラーリであったり、自分だけのために古代ローマの円形闘技場のレプリカを作ることであったりする。



2019年から2020年にかけて4カ月間クウェート国内を回ったチェッコーニ氏は、慎重に言葉を選びながら、「クウェートの国民だけが特別なわけではない」と話す。外国人労働者が冷遇されていることについて「部外者が批判するのは簡単です。でもある日、気づいたんです。私の国イタリアでも、数多くの外国人が『闇労働』市場で働いています。しかも、私たちイタリア人のために働いているのです。彼らの存在は、表には出てきません。けれどこの国では、それがはっきりと目に見えています」
「私はクウェートに来て、自分自身と自分の国が露(あら)わにされたような思いを抱きました。ここでは、すべてが白日の下にさらされています」


(文 WERNER SIEFER、写真 GABRIELE CECCONI, PARALLELOZERO、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年7月7日付]
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