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ボージョレ・ヌーボーも「脱炭素」 おいしくお安く 

エンジョイ・ワイン(44)

NIKKEI STYLE

ボージョレ・ヌーボーが販売解禁になり、さっそく味わったという人もいるだろう。日本は実はこのフランス産新酒の世界最大の輸入国だが、販売量は右肩下がりで、店頭にかつてのような熱気はない。その一方で、一部のワイン愛好家の間でひそかに注目を集めているのが、"脱炭素ヌーボー"だ。気候変動問題の解決に貢献できるだけでなく、通常のボージョレ・ヌーボーより安くて、おいしく、コスパがよい、と評判だ。

ボージョレ・ヌーボーは、フランス・ブルゴーニュ地方の最南端に位置するボージョレ地区でつくられるワイン。ロゼも少量生産されているが、主に赤ワインだ。渋みの元となるタンニン成分の少ないガメイ品種を使った、フレッシュでフルーティーな味わいが特徴。醸造法もカルボニック・マセレーションと呼ばれる独特のもので、それによってつくり出される味わいは、しばしばバナナやキャンディーの香りに例えられる。

キリンホールディングスの調べによると、昨年の日本向けの輸出量は輸出全体の46%を占め、2位の米国(18%)を大きく引き離した。しかし、日本の輸入量自体は2004年を頂点に長期減少傾向が続いており、昨年の輸入量はピーク時の約3割にすぎない。かつては真夜中に派手な解禁パーティーが開かれるなど盛り上がったが、ワイン市場が徐々に成熟し、もっと落ち着いて楽しみたいという消費者が増えていることなどが市場縮小の要因のようだ。

消費者のボージョレ・ヌーボー離れが進む中、一部の愛好家の間で注目を集めているのが、温暖化ガスの排出量削減に貢献する"脱炭素ヌーボー"である。日本に輸入されるワインは通常、船便だが、ボージョレ・ヌーボーは毎年、11月第3木曜日の解禁日に間に合わせるため、航空便を使う。しかし、航空輸送は海上輸送や陸上輸送に比べて温暖化ガスの排出量が圧倒的に多い。世界のワイン業界が足並みをそろえて力を入れている温暖化ガス削減の試みにも逆行している。

ボトルの中で熟成する「列車ヌーボー」

ワイン輸入業者の徳岡(大阪市)は昨年、同社が輸入するボージョレ・ヌーボーの一部を、航空輸送とは違う輸送法に切り替えた。まず、フランスからドイツまでトラックで運び、その後、中国まで鉄道で輸送。再びトラックに積み替え、港まで運び、そこから船で日本に運んだ。輸送経路の約9割が陸路だ。同社の徳岡園子さんは、「陸路だと空路に比べて温暖化ガスを約95%削減できる」と話す。今年も一部の商品を、飛行機を使わずに輸入することにした。

ほぼ陸路で輸入したボージョレ・ヌーボーを徳岡は、「列車ヌーヴォー」の商品名で、6本セット10,000円(税込み)で販売する。ただ、発売日は12月になる見通しという。徳岡さんは「無理に解禁日に飲まなくても、ボージョレ・ヌーボーは十分楽しめる。実際、フランスでは解禁日当日に飲む人は少数派。脱炭素への貢献と共に、列車ヌーヴォーを通じて、新しい楽しみ方も提案したい」と話す。

ワイン輸入業者のディオニー(京都市)は今年から、同社が扱うブランドの1つ「ロミュアルド・ヴァロ」のボージョレ・ヌーボーを全量、船便で輸入することにした。昨年、試験的に半量だけ船便で輸入したところ、消費者から「コスパがよく味もおいしいと好評だった」(バイヤーの玉城寛樹さん)ため、今年は全量、船便での輸入に切り替えた。

その理由について、玉城さんは「一番の理由は、お客様にできるだけ安く、おいしい状態で提供したかったから。それに船便にすれば、温暖化ガス排出量の削減にも貢献できるので」と説明する。

玉城さんは、ボージョレ・ヌーボーの価格がここ10年の間に非常に高くなり、飲み手にとってコストパフォーマンスのよいワインではなくなった、と感じていた。そのため、何年か前から、輸送費を大幅に抑えることができる船便での輸入を検討していたという。さらに玉城さんは、「よい生産者のボージョレ・ヌーボーは、出来たてほやほやの11月に飲むより、ボトルの中で少し熟成させたほうが、よりおいしく飲める」と指摘する。

農薬使わず排出ガス削減に貢献するタイプも

別の形で脱炭素に貢献しているボージョレ・ヌーボーもある。農薬も化学肥料も使わずに育てた有機ブドウからつくられるボージョレ・ヌーボーである。米カリフォルニアワイン協会が、カリフォルニア州のワイン生産に伴う温暖化ガス排出量の内訳を調べたところ、農薬・化学肥料を中心とする生産資材が全排出量の10%を占めた。農薬や化学肥料の多くは石油を原料としていること、大量の農薬・化学肥料をトラックなどで運ぶ際に二酸化炭素を排出する、といった事情などが要因だ。

有機ブドウを使ったボージョレ・ヌーボーの中でも、人気が高いのが、酸化防止剤の添加量をゼロかごく少量に抑えたいわゆるナチュラルワイン系のボージョレ・ヌーボー。例えば、ボージョレ出身で、フランス自然派ワインの父と呼ばれた故マルセル・ラピエールの名前を冠した「ラピエール&シャヌデ」(小売価格3000~4000円前後)は、ナチュラルワイン特有の体に染み入るようなジューシーな味わいが特徴だ。

ナチュラルワイン系のボージョレ・ヌーボーは生産量が少ないこともあり、スーパーなどで売られているボージョレ・ヌーボーに比べると値段も高めで、ワインショップやネットショップでないとなかなか手に入らない。だが、飲めば、ボージョレ・ヌーボーに対するイメージが大きく変わるかもしれない。

今年は、 "脱炭素ヌーヴォー"で環境問題を酒のさかなにしながら、新種の赤ワインをゆっくりと味わってみてはどうだろう。

(ライター 猪瀬聖)

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