新作公開の007 ダニエル・クレイグ主演5作を再確認
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(後編)

6年ぶりの『007』シリーズ新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が公開中だ。21作目『カジノ・ロワイヤル』(2006年)からジェームズ・ボンドを演じてきたダニエル・クレイグが今作で最後となる。
通常、007映画シリーズは1作1作が独立した物語だが、クレイグ版ボンドは物語がつながっている。プロデューサーのバーバラ・ブロッコリは「ダニエル・クレイグで『カジノ・ロワイヤル』をスタートしたころから、『クレイグ版のジェームズ・ボンドは彼の成長物語、(スパイの称号である)00になるまでの物語』と決めていました。(上司)Mはいたけれど、(秘密兵器設計者)Q、(Mの秘書)マネーペニーはいなかった。その後、昔のシリーズに近いものにするために、徐々に再登場させていった。そして(敵組織である)スペクター。ファンは待ち望んでいたと思います」(『スペクター』公開時のインタビューより)。
新作公開にあたり、クレイグ版007のつながりを確認しよう。
[以下、5作品の関係性を示すため、過去作品のストーリーの重要な部分について触れている記述もあります。見ていない人はご注意ください]
前作のラスト直後から始まった作品も
『カジノ・ロワイヤル』(06年)のボンドは殺しのライセンス「00」を得たばかりの駆け出しだった。悪役ル・シッフルがテロ資金を稼ぐため参加したポーカーゲームにボンドも参加。ボンドの監視役として英国政府から送られてきた金融活動部のヴェスパーと恋仲になるが、ラストで彼女はボンドを救い自らが犠牲となる。
続く『慰めの報酬』(08年)はシリーズで初めて、前作のラスト直後から物語がスタート。ヴェスパーを裏で操っていたミスター・ホワイトを手掛かりに、彼の背後にある組織を探る。『スカイフォール』(12年)は前作と直接物語はつながっていないものの、シリーズでおなじみのQとマネーペニーが初登場する(マネーペニーは映画のラストでMの秘書になる)。ジュディ・デンチ演じるMがラストで亡くなり、レイフ・ファインズが新たなMとなる。またボンドが幼少期の頃に住んでいたスコットランドの邸宅スカイフォールがラストの舞台となる。
『スペクター』(15年)は前作とつながっている。冒頭、ボンドはメキシコシティである任務に就くが、それは亡くなった前任のMからの遺言だった。前作で焼けた邸宅の残骸をマネーペニーから渡され、そこにあった写真には少年時代のボンド、養父、そしてもう1人の少年が写っていた。今作で、ショーン・コネリーが初代のボンドを演じていた頃に度々登場していた悪の組織スペクターが復活。クリストフ・ヴァルツが組織のボスを演じる。ラストでボンドは所属していた英国諜報組織MI6を引退する。
悪役には演技派を起用 多様性も意識
最新作も物語はつながっている。
引退から5年後、ボンドはジャマイカで穏やかな生活を満喫していた。彼の元にCIA出身の旧友フィリックス・ライター(『カジノ・ロワイヤル』『慰めの報酬』にも登場)が助けを求めてやってくる。任務は誘拐された科学者を救出すること。やがて彼は人類に脅威をもたらす最新技術を保有する黒幕を追うことになる。ちなみに、ジャマイカは1作目『ドクター・ノオ』のロケ地であり、原作者イアン・フレミングが住んでいたこともある、シリーズにとってゆかりの深い場所だ。
今作の悪役を演じるのは『ボヘミアン・ラプソディー』のラミ・マレック。前々作『スカイフォール』ではハビエル・バルデム、前作『スペクター』ではクリストフ・ヴァルツとアカデミー賞受賞俳優が悪役を演じてきたが、今作でも同じ流れとなった。『007』シリーズは現実の世界を踏まえて、悪役の背景や狙いに反映してきた。悪役を説得力あるものにするため、アカデミー賞を受賞するような演技力のある俳優に任せているようだ。

ボンドガールは3人。レア・セドゥが前作に引き続きマドレーヌを演じるほか、謎の女性パロマ役にアナ・デ・アルマス、そしてラシャーナ・リンチが殺しのライセンス「00」のコード名を持つエージェント、ノーミ役にふんする。「00」のコード名を持つエージェントとして女性が登場するのはシリーズ初。ハリウッドで近年重視される多様性を意識したキャラクター設定といえるだろう。



さらにクリストフ・ヴァルツが演じた悪の組織スペクターのボスも再び登場する。前作で、ボスは少年時代にボンドを育ててくれた養父の息子で、一緒に育った間柄だったことが判明。劇中の最後でボンドに捕らえられた因縁の相手だ。
第1作から続くファミリービジネス
シリーズの大きな見どころであるアクションや新兵器も、新作では盛りだくさんだ。自分の足を縄でしばって橋の上からダイブ、長い階段を駆け上がるバイクチェイス、小型ポッドのような機体が飛行機の格納庫から急発進し、空中へと真っ逆さまに落下し、両翼を広げ小型飛行機へと早変わり。ボンドが乗るアストン・マーティンが多くの敵に包囲されて銃撃を受けるが、ヘッドライトからマシンガンが飛び出して、車を360度回転させながら発砲する。
監督・共同脚本を務めるのはキャリー・ジョージ・フクナガ。テレビシリーズ『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』でシーズン1全8話を監督し、エミー賞のドラマシリーズ部門監督賞を受賞。アフリカの内戦を題材にした『ビースト・オブ・ノー・ネーション』の脚本・監督を手がけ、大ヒットホラー映画『IT イット "それ"が見えたら、終わり。』に脚本家の1人として参加している。様々なジャンルの作品を手がけてきた演出力、脚本家としてのストーリーテリング力が評価されての起用だろう。
主題歌には旬のアーティストを起用するのも007の定番だ。前々作『スカイフォール』ではアデル、前作『スペクター』ではサム・スミス、そして今回はビリー・アイリッシュが起用された。本作の主題歌は一足早く今年のグラミー賞で最優秀楽曲賞(映画、テレビ、その他映像部門)を受賞している。
プロデューサーはバーバラ・ブロッコリとマイケル・G・ウィルソン。バーバラ・ブロッコリは、1作目~16作目までプロデュースしたアルバート・R・ブロッコリの娘で、17作目からプロデュース。マイケル・G・ウィルソンはアルバートが義父にあたり、11作目からプロデュースしている。007はブロッコリ一族が約60年間製作にあたっており、いわば「ファミリービジネス」。共同製作・配給にあたるメジャースタジオは代わってきたものの、プロデューサーはブロッコリ一族という珍しいシリーズ映画なのだ。
ちなみに、米国内の配給はMGM、米国外の配給はユニバーサル・ピクチャーズ(日本では東宝東和)。ユニバーサルが007を配給するのは初めてだ。

(ライター 相良智弘)
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連キーワード