「メタバース」って何? オンラインフェスでも活用
エンターテック
大ヒットしている『あつまれ どうぶつの森』や、昨年、米津玄師がゲームの『フォートナイト』内で開催したライブなど、「メタバース」(仮想空間)を活用したサービスが話題になる機会が増えています。現在、どう盛り上がっているのか。RADWIMPSのライブや、『週刊少年ジャンプ』をはじめとしたジャンプマンガのオンラインフェスなどに、メタバースのサービス「VARP」を提供する、PARTYのテクニカルディレクター/エンジニアの梶原洋平氏に、MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩氏が話を聞きました。
『あつ森』『フォートナイト』などで近年話題に
メタバースとは、インターネット上に作られた仮想空間のことで、多人数が参加することが可能となっており、その中で自由に行動できるのが特徴。「メタ(meta:超)」と「ユニバース(universe:宇宙)」から作られた合成語で、もともとSF作家ニール・スティーヴンスンの著作の中で記述した、仮想世界を指す名称から来ている。『フォートナイト』『あつまれ どうぶつの森』などのゲームや、「VRChat」「Cluster」といったVRにも対応する仮想空間プラットフォームなどがある。
――私もずっと注目しているのですが、言葉としてもメタバースはよく耳にする印象です。
メタバースの言葉の定義は、まだ曖昧なところはあるのですが、簡単に表現すると、"インターネット上の仮想空間で、みんながアバターとなって集まりいろいろできる場所"を指します。遡ると、2000年代前半に『セカンドライフ』が話題になりました。しかし、技術的、文化的、経済的な面で定着には至りませんでした。昨年、人気ラッパーのトラヴィス・スコットが『フォートナイト』でライブを行い、1200万人が同時参加できたのも、全ての面が成熟してきたからこそです。

また『あつ森』は、コロナという状況もあり、メタバースというワードを一般に広げるきっかけとなりました。自分の世界を構築できた上で、様々なイベントが行われるなど、操作性含めて幅広いユーザーのことを考えて作られていると思います。
メタバースに対して、企業をはじめ多くの人が可能性を感じているのはSNSの普及も大きい。今や私たちは、自分の人格を各SNSごとに持つようになってきています。ツイッターではテキスト、インスタグラムでは写真、TikTokではショート動画といったように。メタバースはある意味それらを拡張可能なため、注目度が上がっているのだと思います。
RADWIMPSもバーチャルライブ
――「VARP」は、19年の「フジロックフェスティバル」に提供したアプリがベースだそうですね。
実寸大のフジロックの会場をメタバース上に作り、実際に行った人も行っていない人も、その中で共時性を持った体験ができる世界を目指しました。その評判が良かったことに加え、翌年コロナ禍になったことで、アーティストのライブにもこの技術を生かせるのではないかと。それを「VARP」と名付け、ラッパーのkZmさん、RADWIMPSさんのバーチャルライブで活用しました。
VARPでは、ユーザーがメタバース内にアバターとなって入り、イベントは決まった時間に行われます。仮想の身体と現実の時間という制限を設けることで、ライブ会場に向かうにしても、経路や時間を考える必要がある。こういった体験の積み重ねが「ライブ体験」を作ってくれるのです。
kZmさんの時は、ワールドに入ると島に上陸するところからスタート。1周約2分で回遊できる狭めの島にすることで、ライブ前にファン同士でコミュニケーションを取れるようにしました。RADWIMPSさんは昨年12月と今年7月に、「SHIN SEKAI」と題したバーチャルライブを開催。コロナを経て、新世界へ向かっていってほしいというメンバーの思いを込めたものでした。昨年12月は、最初シェルターから始まり、荒廃した街を抜け、大きな塔の先にある島でライブを行いました。先月のライブでは、より多様な技術や表現を使って、VARPならではのものとなりました。

――昨年12月の『ジャンプ』ファンが集う無料オンラインイベント「ジャンプフェスタ2021 ONLINE」も面白かったです。
予想以上の来場者数となり、グッズのEC売り上げも好調で、ビジネス的にも大成功。改めて一定のファンを持つイベントやブランドの、メタバースを使ったビジネスの可能性を実感しましたね。
今後の課題はリアルとの連動です。5G回線の普及やさらなる技術革新で、実際に行っている人と行ってない人がシームレスにつながる仕組みが充実していけば、より多くの人にとって、楽しみもチャンスも広がっていくのではないかと思っています。
スズキの視点
「VARP」の一連の取り組みを聞いて、さすがPARTYだと感じたのは「身体性」「共時性」という側面から、メタバースの価値を引き出そうとしているところです。一般的にメタバースは、「ライブがデジタルに置き換わったもの」として捉えられがちですが、メタバースならではの体験を機能面と同時に設計すれば、グローバルなコミュニティーを一堂に集め、リアルでは不可能な感動を届けることが可能になります。チケットやECといったマネタイズも順調のようですし、今後の展開がすごく楽しみです。
ParadeAll代表取締役。"エンターテック"というビジョンを掲げ、エンターテインメントとテクノロジーの幸せな結びつきを加速させる、エンターテック・アクセラレーター。エンターテインメントやテクノロジー領域のコンサルティング、メディア運営、カンファレンス主催、海外展開支援などを行っている。
(構成 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2021年9月号の記事を再構成]
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