ネット中傷、対応共有を アーティスト・スプツニ子!
ダイバーシティ進化論
ヒラリー・クリントン元米国務長官が昨年10月に来日した際、米国大使館公邸で開かれた意見交換会にお邪魔した。女性を中心に政治家や企業人らが招かれ、米国の中間選挙などさまざまなテーマで話が弾んだ。なかでも私が印象深かったのが「インターネットでは女性が被害にあいやすい」という点をヒラリーさんも問題視していることだった。
ヒラリーさん自身、ネットで見るに堪えない誹謗(ひぼう)中傷を浴びている。ネットで挑発的なメッセージが発信されると、デマであってもあっという間に拡散してしまう。オンラインの被害は誰もが受ける可能性があるが、少数派や旧来のジェンダーの価値観に縛られないフェミニストらは標的になりやすいという研究がある。
ネット空間であっても、実際の暴力と同様に身がすくむ女性が多いのではないか。人権団体アムネスティ・インターナショナルが2017年、米英など8カ国の女性約4千人に聞いた調査では、23%の女性がオンラインでハラスメントを受けた経験があると答えた。
私は07年からツイッターを利用している。当初は普段声をあげにくい少数派を含め誰もが自由に発信できる言論の場として、前向きな空気に満ちていたと思う。本来なら多様性の推進を支える可能性があるツールなのに、今や人格否定や侮辱などの言葉が飛び交う場になっている。非常に残念なことだ。

SNSで被害にあったら距離を置くのが一案だ。一方で被害を受ける女性がSNSから退場させられるのもおかしな話である。去る女性が多ければ、ネット空間の多様性が失われることにつながる。
誹謗中傷を野放しにしない、と意思を示すことも必要なのだろう。被害に直面したとき、どう対応すればいいのかわからない人は多いと思う。私は信頼できる人を集めてコミュニティーをつくり、ノウハウを共有している。ネット上の誹謗中傷に対応する法規制は整い始めている。誰かと話し合うことで精神的に楽になることもある。
フジテレビのリアリティー番組に出演した女性が、SNSで誹謗中傷を受けた後に亡くなった問題の記憶は新しい。発信する人は軽い気持ちでも、相手に計り知れないダメージを与えることはある。そうしたことを伝えるメディア教育も本質的に重要だと感じる。

[日本経済新聞朝刊2023年1月9日付]
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