さらばジンギスカン 大衆酒場・ステーキ店で絶品ラム

ラム(子羊)肉専門の店が目立つようになってきた。しかも、これまでのラム専門店とは、ちょっと様子が異なる。今までなら、ラムといって誰もが思い浮かべるのは、ジンギスカンやラムチョップといった、ラムならではの料理を出す店だった。ところが、最近では牛、豚、鶏に並ぶ食材の1つとしてメニューを構成している店が増えているのだ。
ラムゴロー:熟成ラム肉がウリの大衆酒場
2021年9月にオープンした東京・神田の「ラムゴロー」は、そうした店の1つ。ラム肉大衆酒場をうたう。メニューには、ラムチョップもあるが、むしろ目を引くのは備長炭で焼いた肉串や、スペアリブステーキ、ベーコン入りポテトサラダといったほかの居酒屋にもありそうなメニュー。ただし、これらの料理に使われているのが、すべてラムなのだ。

中でも人気は、1本190円の「熟成ラム串」。脂身が多い部位であるショルダー使った串で、肉の熟成を助けうまみを増す特殊シート「エイジングシート」を用い5日間熟成させている。くさみがなくジューシーで、毎日150~200本は出るという。珍しいラムのタン(舌)を使ったラム串(390円)もあり、こちらも人気。
牛に比べてラムのタンは小さく、肉質のいい部分だけを使っているので、なんと1本に1頭半分のタンが使われる。上にはたっぷりネギ塩だれがかかり、こちらも「エイジングシート」を用いているためか、タンといってイメージする食感より軟らかく感じる。

また、この店自慢のラムのひき肉を使ったマーボー豆腐は、「近くにあるうちの別の店を利用されたお客様が、シメにはこれを食べたいと、その店を利用した後にわざわざおみえになることがある」と、同店を経営するスマイルリンクル(東京・千代田)取締役最高執行責任者(COO)の大島清志さんは話す。ホアジャオ、ラー油のほか、ラム料理に合うスパイス、クミンも使用。ココナツオイルを加えて炊いた十六穀米のご飯を添え、店の名物料理の1つになっている。
そのほかにも、低温調理をしたスペアリブの表面を提供前にこんがり焼いた「ラムのスペリブステーキ」や、「ラム肉のたたき」などがメニューに並び、一味違った居酒屋料理を楽しめる。2022年1月からは新しく、ラム肉100パーセントのハンバーグや塩煮込みもメニューに加わった。

スマイルリンクルは、神田エリアで集中的に飲食店を出店してきた会社だ。これまでは、周辺に勤めるオフィスワーカーを主な客層とした業態で人気を集めてきた。しかし、新型コロナウイルスの影響で神田駅の乗降客数が減る中、平日はこれまで同様の客層にアピールしつつ、週末にはほかの地域からわざわざ来てもらえるような店を出店したいと考えた。そこで目を付けたのが、ラムだったのだ。

ラムには根強いファンがいて、東京・中野で毎年開催される「羊フェスタ」のように、ラム専門のフードフェスティバルまで開催されている。「そうしたファンにアピールできれば、土日には目的来店のお客様に利用していただけるのではと考えた」(スマイルリンクル営業管理部広報販促担当主任の竹内宏和さん)という。そして、週何回通っても飽きないような居酒屋メニューにしつつ、ラム肉ファンにも喜んでもらえる店にしたいと試行錯誤。
オープン当初は食べ飽きないようにと控えめだったクミンなどのスパイス使いも、ラム肉ファンを意識して、よりパンチのある味付けに変更した。ちなみに、ドリンク類もラム肉に合うように考えた「ラム専用サワー」(ジンとカルダモン)、「山椒サワー」(ジンとサンショ)、「スパイシーサワー」(焼酎とシナモン、ショウガ、ナツメグ)など、スパイスが効いたサワードリンクをラインアップする。

今では、週1回必ず訪れる客や、3日連続して来店したこともある常連客もいるそう。週末の客は女性が中心。同店のお通しは、羊乳のチーズが中に入ったかわいい羊型のモナカなのだが、SNS(交流サイト)によく写真が投稿されるそうだ。
ステーキロッヂ:ステーキ店が牛以外追求でラム
一方、ラムをメニューに取り入れることで健康への意識が高い客の人気を集めているのがステーキハウス「ステーキロッヂ」だ。18年に東京・渋谷に1号店をオープンした同店だが、「最初は、とにかくビーフステーキを、他店よりおいしく安く出すにはどうしたらいいかを考えていた」と同店を経営するB級グルメ研究所(東京都武蔵野市)のブランドディレクター、福田幸洋さんは話す。
しかし、1年ほどしてリピーターが増えてきたときに、客に「どんなものを食べたいですか」というアンケートを取ったところ、思わぬ結果がでた。鶏、豚、羊肉と、牛肉以外のものを食べたいという声が目立ったのだ。「当初は、ビーフステーキの付け合わせとしてこんなものが食べたいといった答えが返ってくると思っていたので、驚きました」(福田さん)という。

鶏、豚、羊肉を食べたい理由は「体にいいから」。鶏は脂が少なくたんぱく質が多い肉で、豚はビタミンB1が豊富な食材として知られる。そこで、ほかのステーキ店との差別化を図るためにも、同店は機能性を意識した肉を使ったメニューの導入を決めた。その1つがラムだったのだ。
ラム肉は、高たんぱくで低脂質。牛肉などに比べ鉄分が多く、脂肪の燃焼を助けるL-カルニチンも含まれる。また、牛、豚、鶏に比べ脂の融点が高いため、脂肪が体に吸収されにくいという。これが想定以上に客にアピール。「宣伝をしなくても、お客様がSNSでメニューを発信してくださり、話題になった」と福田さん。21年8月には、ラムステーキは客のオーダーの1割を占めるまでになった。

当初はラムチョップの形での提供も考えたが、ステーキハウスという業態では食べにくい料理は客が喜ばないだろうと、小さめにカットした薄切り肉を野菜と一緒に鉄板に盛り付けた。初めは厨房で焼いた肉を出していたのだが、同店のビーフステーキは熱した鉄板の上で自分好みの焼き加減で食べる方式。
ラムも同様の形で食べたいという客の要望を受け、2021年11月下旬からは、主なラムのステーキメニューをレアの状態で提供し、各人好みに火入れできるように変更した。このメニューでは、肉も当初の冷凍肉から「生ラム」と呼ばれる冷蔵肉に変更。使用するのはオーストラリア産の肩ロースで、以前より厚切りになりステーキらしい食べ応えがあるメニューだ。
付け合わせには、モヤシやニラ、ピーマン、キャベツがたっぷり170グラム盛られ、見るからに健康的だ。生ラムステーキは、「草原育ちの生ラムジンギスカンステーキ」とこれにトウガラシをふんだんにかけたメニューの2種類なのだが、いずれも最低で200グラムからとボリューム感あふれる。
ところが、これが意外にすっきりと胃に収まる。肉にサシが入っておらず、たれも薄めの味なので、あっさり食べられるのだろう。女性客も目立ち、ラムを食べに週1で通うリピーターもいるそうだ。
ラムと泡:スパークリングでラムを味わう


21年10月には、東京・新橋に日本初というスパークリングワインの卓上サーバーが各席にそなえつけられた店「ラムと泡」がオープン。店名通りメニューには、生ラムを使ったラムチョップをはじめとするラム肉料理がずらりと並ぶ。
スパークリングワインは45分注ぎ放題で555円と破格、気軽に酒とラム料理を楽しめる店だ。毎日ジンギスカンを食べることはなくても、居酒屋やステーキハウスならば日常使いがしやすい。ラムを食べる機会はこれからぐっと増えそうだ。
(ライター メレンダ千春)
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