女性活躍進むアジア途上国 ADB副官房長・児玉治美
ダイバーシティ進化論
国際機関で働いていると、支援の対象である途上国の方が、支援を行う先進国側である日本よりジェンダー平等が進んでいると感じることが多い。世界経済フォーラムが7月に発表したジェンダー・ギャップ指数によると、日本におけるジェンダー平等は146カ国中116位だったが、アジア・太平洋の途上国で日本よりランキングが高かった国は19位のフィリピンを筆頭に23カ国もあった。
私が勤めるアジア開発銀行(ADB)は、アジアの途上国に対して開発のための融資や無償資金協力を行っている。ADBのプロジェクトを審査・承認する理事会では、ジェンダー平等の要素が盛り込まれていない案件には各国政府代表から非難の声が上がり、盛り込まれている案件でも、それを一層強化することが求められる。
途上国側は、資金提供を受ける条件として、ジェンダー平等のための施策の実施を数値目標などとともに約束する。
例えば11月に承認されたバングラデシュに対する2億ドル(約270億円)の融資は、貧困層・低所得層向けの小口金融を支援するものだが、融資を受ける側の80%以上が女性が所有・主導する事業であることを目指す。
同じく11月に承認されたインドネシアに対する5億ドル(約675億円)の融資は、誰もが取り残されることなく金融サービスにアクセスできる(金融包摂)ための政府の改革を後押しするものだが、中小企業や女性、若者など脆弱なグループを対象としている。

前述のジェンダー・ギャップ指数ではバングラデシュ、インドネシアのランキングはそれぞれ71位、92位。貧困など多くの開発課題を抱える半面、女性の活躍という意味では日本より進んでいる。ADBなどの支援のもと、これらの国々でジェンダー平等施策が着実に実行されると、日本との差がますます広がるのではないかと心配になる。
日本の中小企業の管理職に占める女性の割合は約1割だ。「歴史にifはない」というが、もし日本が途上国なら、今ごろ国際機関から女性の経営者を増やすための支援を受けていたのだろうか。
世界銀行からの支援を56年前に卒業し、ADBからも支援を受けたことがない日本には、そうした機会は与えられなかった。外からの援助や圧力がなくても、自力で変わるしかない。

[日本経済新聞朝刊2022年12月5日付]
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