観光でにぎわいが戻る欧州 魅惑の7つの村

新型コロナがもたらした旅行制限が緩和され始め、ヨーロッパへの旅行熱が高まっている。「ヨーロッパ便の予約は増え続けています。ヨーロッパ旅行委員会が最近公表したアンケートによると、回答者の88%が、2022年の夏にヨーロッパ旅行を予約するつもりだといいます」と、オランダ政府観光局の北米担当者、アントニア・コエディク氏は話す。
一方で、ヨーロッパの人気観光都市は観光客の殺到を警戒している。イタリアのベネチアは最近、大型クルーズ船の乗り入れを禁止した。オランダのアムステルダムでは、バチェラーパーティー(独身最後の夜を楽しむ男性たちのパーティー)が人気だが、あまりにも人が集まるので規制に乗り出している。こうした取り組みが、新たな戦略を生み出した。

「オランダは小さな国ですから、アムステルダムを訪れたら、ほかのさまざまな町や地域にも気軽に足を運ぶことができます。その点に気づいてもらいたいのです」と、コエディク氏は言う。この戦略は効果を上げているようだ。「ここ数年は、主要都市と小さな町を組み合わせた旅に、米国人旅行者の関心が高まっています」
こうした関心は、小さな村の魅力を知る経験豊かな旅行者たちには、すでに定着している。フードマーケットや一風変わったフェスティバル、芸術家の心をとらえる小さな村など、ヨーロッパへのあこがれをかき立てる7つの村を紹介しよう。

ヒートホールン(オランダ)
旅のヒント:「オランダのベネチア」でのんびりと水路巡りを
オランダ北東部、アムステルダムから約120キロメートルの位置にあるヒートホールンは、「北のベネチア」として知られている。この地域では泥炭(ピート)採掘が盛んだったので、村では泥炭を運ぶ水路が発達した。かやぶき屋根の住宅がある島々は170以上の小さな木造の橋で結ばれている。村には道路が少ないため、村とこうした家々のたたずまいを楽しむには、ボートを利用するのが一番だ。
モーターボートをレンタルすることもできるが、カップルでゆっくり楽しみたいなら、船頭を頼むという手もある。長い平底船を竿(さお)で巧みに操って、村の水路を巡ってくれるだろう。
撮影スポットとして最適な水路は、ビネンパッドだ。趣のある家々と橋、そして水面に日差しが降り注ぐ風景に、きっと心を奪われるだろう。ビネンパッドやそのほかの水路沿いにはレストランが並び、テラスでくつろぎながら昼食を楽しめる。

ハワース(英国)
旅のヒント:恋愛小説に目がない、本好きのあなたに
英国のハワースは、一見したところ、ほかのヨークシャー州の村々と変わりがない。だが、村の目抜き通りの急坂を登りつめると、ブロンテ博物館(旧牧師館)がある。ここは、シャーロット、エミリー、アンのブロンテ姉妹が暮らし、小説を執筆した家だ。
ブロンテ姉妹が幼い頃に作ったミニチュア本のひとつが、毎年、公開されている。学芸員のアン・ディンスデール氏は、「ミニチュア本には、散文や詩、批評文が書かれています」と話す。「とても文字が小さいので、拡大鏡がなければ読めないでしょう。小さい文字で書くことで、姉妹たちだけの秘密の本になったのです」
また、ブロンテ姉妹が執筆に使用した食卓も公開されている。「毎晩、ブロンテ姉妹は食卓のまわりを歩きながら、原稿を読み上げたり、小説の構想を話し合ったりしたことでしょう」と、ディンスデール氏は説明する。この部屋の閉ざされた雰囲気と、小さな食卓の周囲を歩き回る三姉妹の情景からは、姉妹が周囲に広がる湿地ムーアに寄せた愛情が強く感じられる。ブロンテ姉妹は、ムーアから豊かなインスピレーションを得ていた。エミリーが書いた印象深い古典的恋愛小説『嵐が丘』もそのひとつだ。
喫茶店もパブも灰色の石造りの建物で統一されたハワースには、キースリー&ワースバレー鉄道の駅もあり、昔ながらの蒸気機関車が牧歌的な村々に乗客を運んでいる。

ジベルニー(フランス)
旅のヒント:緑豊かな庭園とフランス印象派への賛歌
芸術家の中には、身近な環境からインスピレーションを得る人もいる。だが、クロード・モネほど、創作環境を丹精こめて整備した画家はいないだろう。パリから北西に約70キロメートル、ノルマンディー地方の川沿いの閑静な村、ジベルニーに、モネは40年以上も暮らしていた。ここは、モネにとって家であり、制作の題材であり、造園術を駆使して作りあげた景観だった。
モネが愛した睡蓮(すいれん)の池は、岸辺にシダレヤナギが並び、アーチ型をした緑色の橋が印象的だ。モネは、250点を超える油絵作品に睡蓮を描き、睡蓮に不朽の名声をもたらした。フランス印象派のファンなら、モネの家と庭を訪れ、近くのジベルニー印象派美術館にも足を運んでみよう。

クラーデスホルメン(スウェーデン)
旅のヒント:豪華なシーフード料理と島のすばらしい景観を楽しもう
スウェーデンの西岸にあるクラーデスホルメンは、小さな島だ。王領の島として、入植を認められた漁師たちが定住し始めたが、その後、ニシン貿易で繁栄した。
今では当時のにぎわいも失われたが、島には漁業博物館があり、バラに囲まれたパステルカラーのコテージも並んでいる。「ソルト&シル」という水上ホテルには、専用の桟橋を設けた客室も用意されているので、気が向けば、島の過去に敬意を表したニシン料理のディナーの前に、バルト海の澄んだ水に飛び込むこともできる。
カップルなら、町の波止場からボートやカヤックで港を出て、青い海を堪能するのもおすすめだ。

ルールマラン(フランス)
旅のヒント:食欲をそそるマルシェで買い物をして、ふたりでピクニックを
ルールマランは、フランス、プロバンス地方のアビニョンから東に約65キロメートルの場所にある。16世紀の古城がそびえ、石畳の広場があちこちに残っており、週の大半は南仏らしい昔ながらの村の静けさに包まれている。また、ピーター・メイルやアルベール・カミュなどの作家が住んだ村としても知られ、村の小さな墓地にはカミュの墓もある。
だが、金曜日がやってくると、静かな村は一変してにぎやかになる。金曜日の朝8時から、村の中心部のプラタナスの木陰で市場(マルシェ)が開かれるのだ。このマルシェでは、地元の人々が製作した工芸品、陶磁器、ラベンダーが香るせっけんやサシェ(匂い袋)なども並ぶ。
たくさんの店が並ぶマルシェで見逃せないのは、プロバンス産のオリーブ、ジャム、いちご、ワイン、ソーセージ、パン、ペストリーなどを売る店だ。早めに到着して、お目当ての農産物を買いこみ、古城の日陰でふたりのピクニックを楽しもう。

テルチ(チェコ)
旅のヒント:ロマンチックなルネサンス建築と不朽の遺産が語り継ぐ物語に浸ろう
プラハの約145キロメートル南にあるテルチは、チェコの多くの村と同様に、優れた自己改革力を備えている。1530年、この村は大火に見舞われ、がれきと化した。だが、その17年後、テルチは華麗なルネサンス様式で再建された。ユネスコの世界遺産に指定されている中央広場の建物は切り妻屋根とアーチが特徴で、明るいシャーベットカラーが目にさわやかだ。
村の中心の地下を走る14世紀のトンネルを巡ったら、地上に出て新鮮な空気を吸い、次にセントジェームズ教会の塔に登ってみよう。村で最高の眺望が楽しめるはずだ。それから城の庭園を散策すると、ルネサンス様式の魅力を再認識できるだろう。

モンテファルコ(イタリア)
旅のヒント:歴史あるピアッツァ(広場)のにぎわいに包まれて、屋外の食事を楽しもう
イタリアのウンブリア州にあるモンテファルコには、ローマ時代以前から人々が定住し、ワイン用のブドウ園とオリーブ畑で知られている。サグランティーノという名高い赤ワインが生産され、毎年、イースターの頃にはワイン祭りが開催される。
この地元特産のワインを、モンテファルコのワインバーで試飲してみよう。名店のひとつが、「エノテカ・ラルキミスタ」(Enoteca L'Alchimista)だ。この店には、広いピアッツァに面したテラス席がある。専用の菜園で育てた農作物を使用し、地元産食材を取り入れた特製メニュー(トリュフソースのパスタに、削ったトリュフを載せた一皿など)が自慢だ。地元産ワインで、この村や旅のパートナーに乾杯しよう。
宿泊には、数百年の歴史を持つ民家を転用した宿や、近所の農業体験施設がお勧めだ。
(文 RAPHAEL KADUSHIN、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年6月26日付]
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