動画配信U-NEXT 目指すは「グローカル」なサービス
テレビ番組『セサミストリート』などを手掛ける非営利教育団体セサミワークショップと国内の独占配信契約を締結した定額制動画配信サービス「U-NEXT」。発表会では「学べるU-NEXT」というコンセプトを打ち出したが、そのためにも「動画配信」にとどまらない技術革新を見据えているという。世界的な企業がしのぎを削る定額制動画配信サービスで、日本企業の強みを生かす戦略を責任者に聞いた。
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定額制動画配信サービス売上市場のシェアで、国内サービスとして首位に立つU-NEXT[※GEM Partners「定額制動画配信(SVOD)サービス別 市場シェア推移」]。見放題作品数でも国内No.1という同社だが、「観る」「読む」「聴く」を1つのアプリで提供する「オールインワン・エンターテインメント戦略」と、U-NEXTでしか見られない作品を充実させる「ONLY ON戦略」を展開中だ。
2021年、U-NEXTは子ども向けテレビ番組『セサミストリート』をはじめとする様々な教育的活動を行うセサミワークショップと、国内の独占配信契約を結んだ(前編「動画配信U-NEXT 『子どもが学べるチャンネル』目指す」参照)。U-NEXTは動画配信だけではなく、70万冊以上の書籍やマンガを読める電子書籍サービスを行っている。そのため、1つのアプリで「見る」「読む」「聴く」を楽しむことが可能になる。「それができるのは、全てをインハウスで開発するエンジニアチームの存在が大きい」と取締役最高執行責任者(COO)の本多利彦氏は言う。
「電子書籍ジャンルに読み放題として、『セサミストリート』の絵本を、しかも日本語と英語の2カ国語で公開するのは難しかったのですが、すぐに対応できました。
うちの技術開発は単にソフトウエアのアップデートといったものではなく、当社のカスタマー・エクスペリエンス(CX)の部署と一緒に、ユーザーの方にどういったサービスが必要なのかをヒアリングして考えながらやっています。今後はそれを進化させて、当社のアプリを使ってどういう体験ができるのかというところを考えていきたい。
例えば絵本を自動でめくるようにするなら心地よいスピードを突き詰めたいですし、絵本をめくりながら途中でパンと音が出たほうが良いなら、そういうものを作りたいと思っています。コンテンツ軸に合わせた開発を今後も一緒に追求していきながら、オールインワン・エンターテインメントをさらにリッチにしていく開発につながればいいなと」(本多氏)

データ活用で子どもの関心を広げる
こうしたエンジニアチームの存在が、キッズジャンルにおいては、保護者が安心できるようなサービス設計にもつながる。既にペアレンタルコントロール機能は備わっているが、今後はキャラクターのアイコンが選べるなど子どもたちが楽しめるようなユーザーインターフェースの変更や、子どもの視聴時間をセーブするキッズモードの導入も考えているという。
「U-NEXTは、ビッグデータとアルゴリズムの活用をしている、データドリブンなサービスなので、例えば『セサミストリート』なら何分で区切るのが適当なのかといったこともデータから分かります。ただし、楽しんでいる子どもが寂しい気持ちにならないように、パツンと終了するのは避けたいなとも思いますね。僕自身もそうだったのですが、やはり子どもには夢を見てほしいので、U-NEXTオリジナルのカラフルで楽しげなアバン(導入)から作品を見始めて、終了するときも楽しい気持ちのままにさよならしてほしいなと思います」と本多氏は語る。
データ活用は「学べるU-NEXT」にとっても大きな意味を持つ。
「まだ構想段階ですが、リコメンデーションシステムを活用すれば、『セサミストリート』のこのエピソードを見て算数に興味を持ったら、今度は建築に興味を持たせましょう、ということも自然にでき、『学べるU-NEXT』としてSTEAM教育(科学・技術・工学・芸術・数学の5つの英単語の頭文字を組み合わせた教育概念)をより実践できるのではないかと考えています。この子は車が好きだから車が関係する作品がレコメンドされるというのが従来のサービスですが、『うちの子どもは音楽に興味があるのかと思っていたら、実は算数が好きなのかもしれない』といった意外な発見もあるかもしれません。
さらに保護者の方が、今はこのカリキュラムのここまで進んだのだなということが分かるようになれば最高ですね。コンテンツ戦略も理解しながら、U-NEXTの目指す方向を共有してCXとエンジニアチームと一緒に議論していけるのはU-NEXTの強みだなと思います」(本多氏)
このようなコンテンツへの深い理解や多角的なビジョンが、セサミワークショップが日本においてもっともふさわしいパートナーを見極める上で重要な要素であったことは、先の記者会見(21年11月10日開催の「U-NEXT キッズジャンル戦略発表会」)でNPOセサミワークショップ日本代表の長岡学氏も強調していた。

オールインワン・エンターテインメントとテクノロジーといったU-NEXTの強みを生かした『セサミストリート』の今後の展開は、既にさまざまな可能性が考えられている。例えば『セサミストリート』が米ニューヨークで行っているジャズライブを、日本でも高音質・高画質でライブ配信することも構想にある。また、現在はコロナ禍が収まった後に向け、『セサミストリート』のリアルイベントについても、かなり具体的なイメージがあるようだ。
「イベントに保護者のみなさまが来場して、いろいろなことを知って体験していただいて、子どもたちと一緒に舞台に登場したエルモたちと親しむことができたら楽しいイベントになるでしょう。そこまで含めて日本で展開したいですね。キッズジャンルの大切さは、アイテムと映像とリアルなイベント、このトライアングルにあると思っています」と本多氏は話す。
こういった展開はキッズジャンル以外にも共通する。
「(アイテムと映像とリアルなイベントというトライアングルは)既に音楽のライブでは、重要視されています。例えば、我々が昨年配信させていただいた日比谷音楽祭ではこのトライアングルができていて、21年は無観客でしたが、22年は有観客になっても来場できない人のためにデジタル配信するなど、体験と配信を結びつける存在として、今後も協力していきたいと考えています。それがU-NEXTの強みでもあるし、ライブやイベントの配信はコロナに関係なく必要なことになっていくだろうと思いますね」(本多氏)
U-NEXTの推し進める"グローカル"戦略
U-NEXTはこれまでにも「日本ならU-NEXT」という信頼関係を築いて、海外のディストリビューター(配給者)との関係を強くしていくことで幅広く質の高い作品をそろえてきた。



グローバルで展開するNetflixやAmazonプライム・ビデオなどに引けを取らない魅力的なラインアップを実現することがU-NEXTのビジネスの競争戦略でもあるのだが、そこで肝となるのが、"グローカル"(グローバルとローカルを組み合わせた造語)な展開だ。
「U-NEXTは日本のサービスですが、国際的な視点を絶対に忘れたくありません。逆に言えば日本のサービスなので、日本の視点も外したくないですし、オールインワン・エンターテインメントサービスを実現している世界で唯一のサービスですよと、本当の意味でのグローカルをしっかりと出していきたい。競争に勝つという視点だけではなく、海外のエンターテインメント大手の作り手たちが、『日本はやっぱりU-NEXTでしょう』と言ってくれるよう、日本のニーズとU-NEXTの方針を理解し納得していただいて、グローバルなパートナーと作品を整えていく。それが、私が考えるグローカルです」と本多氏は話す。
グローカルに関しては、大きな野望がある。
「日本列島は、素晴らしい景色や食事、文化もたくさんあります。日本の食育は世界に対して誇れるものですし、文化にしても、法隆寺ひとつをとっても、なぜ日本でこれが守られるのか、どうやって守ってきたのか。ここで今触っている木が飛鳥時代のものであると伝えると、海外の人はすごくびっくりするんです。そうした日本の魅力を日本で映像化して、『セサミストリート』から世界に伝えることができたらいいなと。海外の子どもたちが日本のことを知る機会にもなるし、日本の子どもたちも『日本ってすごいんだなあ』と思えるのではないでしょうか」(本多氏)
「学べるU-NEXT」に関する次なる展開へのアイデアは尽きない。
「『学べるU-NEXT』を始めた時に、実は出版社からもいくつか問い合わせがありました。例えばある女性誌の出版社さんの場合、『セサミストリート』のターゲットよりも少し成長した思春期の子どもたちを抱える親御さん向けの出版物のニーズがあるそうです。『セサミストリート』に限定せず、すべての子ども、すべての保護者の方たちが学べるようなものを提供できたらいいですね。動画だけでなく、電子書籍もあるU-NEXTだからこそ、メディアを限定しない『学び』の機会を提供できるサービスになりたいと考えています」と本多氏は語る。
(ライター 今祥枝、日経エンタテインメント! 平島綾子)
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