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那覇・瑞穂酒造、沖縄産黒糖でラム酒造り

NIKKEI STYLE

那覇市の首里地区は湧き水に恵まれた街だ。琉球王国時代、泡盛製造を許された「首里三箇(さんか)」と呼ばれる地域には多くの酒蔵がひしめいた。その首里で最も歴史の古い瑞穂酒造が、ラム酒造りに乗り出している。沖縄県内の8つの離島で製造された黒糖を原料に8種類の味わいのラムを造るという雄大なプロジェクトだ。

那覇空港からモノレール「ゆいレール」で25分ほど、市立病院前駅から歩いてすぐの場所に瑞穂酒造はある。首里の丘陵を水源とする安謝川が静かに流れるこの一帯は、水はけの良い琉球石灰岩と泥岩で構成され、湧水の名所「宝口樋川」も近い。

3年以上熟成させた泡盛を「古酒」というが、これを初めて商品化したのが同社だ。創業170年の2018年にはジン造りに取り組んだ。海外コンテストの受賞歴もある。7代目の玉那覇美佐子社長が掲げるのは「フロンティアスピリット」。新型コロナウイルス禍で酒類業界の将来に強い危機感を覚え「どこにチャンスがあるかを真剣に考えた」。

そこで打ち出したのが8つの離島の黒糖をラム造りに生かす「ONE RUM(ワン・ラム)プロジェクト」。商品開発で琉球大学教授らと連携し、21年夏の第1弾を皮切りに、現在までに5島分を発売した。仲里彬商品開発室長は「沖縄の素材にこだわり、沖縄でしかできないものづくりに取り組んだ」と語る。

黒糖は単に甘いだけではない。島ごとに風味が微妙に異なり、日本最南端の波照間産は香りが濃く、すっきりとした味わいのラムになる。日本最西端の与那国産はようかんのようなフレーバーが特徴だ。伊平屋産は乳製品を感じさせる香りを持ち、粟国島のものは塩っけや苦みがなく蜂蜜のようなすっきりとした甘さ。小浜産は香ばしさとフルーティーさがバランスよく味わえる――といった具合だ。

酵母も地元産で、本島北部の八重岳(本部町)の桜から採取した。フルーティーな原酒造りに最適という。「黒糖の風味を生かし、各島が持つイメージを膨らませて、ラムの個性に仕上げていく。難しくもあり、面白くもある作業です」。仲里さんがほほ笑む。

伊平屋、与那国のラムは黒糖と酵母を仕込んで6~7日で発酵させる一段仕込みだったが、波照間、粟国、小浜は発酵期間の長い二段仕込みを採用。焼酎などで使われる手法で香りや味わいが豊かになる。各800本限定でいずれも完売。玉那覇社長は「県外のバイヤーからも問い合わせが入るようになった」と語る。

同社は県内で3種類のサトウキビを無農薬で育てている。どの種類が最もラム造りに適するかの研究だ。地元バーテンダーに知恵を借り、おいしい飲み方やカクテルのレシピも提案する。

「ラムを通じてサトウキビ農家に収入確保の道を開きたい」と仲里さん。難題に挑戦し、必ずや乗り越える――。ワン・ラムプロジェクトにはそんな気概が脈打っている。

(那覇支局長 奈良部光則)

[日本経済新聞電子版 2022年9月29日付]

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