乃木坂46卒業してカウンセラーに トラウマ克服して今
中元日芽香さん

人気アイドルグループ「乃木坂46」の1期生として「ひめたん」の愛称で親しまれた中元日芽香さん(25)は2017年にグループを卒業し、現在は早稲田大学で学びながら、心理カウンセラーとして中学生からビジネスパーソンまでの悩みに向き合う。アイドル時代の経験や適応障害を克服した体験をもとに、訪れる人々を支える。
自分の可能性信じる
中元さんの体調の異変は中学3年での加入後、ほどなくして起きていた。緊張すると腹痛がおきる。突然、不安になる。「誰にでもあるのかな、と放置していた」
シングルCDが出るたびに表題曲を歌うメンバーが選ばれる仕組みで、中元さんは選抜メンバーを目指し「褒められたい、認められたい」と、1日数本のエナジードリンクを飲み、過食と無理なダイエットを繰り返した。心身が悲鳴を上げた。
スーパーには行けるが、仕事だと足がすくみ家から出られない。涙が止まらない。現場では心ここにあらずの状態。曲や振り付けを覚えられない。笑うことができない。食事の味もわからない。
病院で「適応障害」との診断を受けた。典型的な症状はストレスがかかる状況にうまく対応できず、心身のバランスを崩し、社会生活にも支障を来すようになることだ。ストレス状態が解消すれば改善が見込まれるが、悪化すると「うつ病」に移行することもある。
「もう休業するしかない」。17年1月に休業に入り3月半ばには復帰したが、心ここにあらずの状態は変わらず、年末に卒業した。
「病名がついてホッとした」と、当時を振り返る。「甘えてるのかなとか、怠けてるのかなとか、自分を攻撃していたが、医師の説明を受け、自責の念から解放された」
休業前にマネジャーの助言で心理カウンセラーのもとを訪れた。机の上に涙をぬぐったティッシュの山ができるくらい一生懸命に話した。
カウンセラーは「これまで体が泣いてくれていたんだ。つらかったでしょう」「5年間も頑張り続けたことがすごいこと。誰もができることではない」と応じた。自分をいたわるという発想がなかったことや、他人より秀でたものが自分にもあることに気づき、「衝撃的な経験だった」。
カウンセリングへの興味が高まり、グループを卒業後、カウンセラーの養成学校に通い始めた。「芸能界以外で仕事をするにあたり、経験だけではやっていけないだろう。アカデミックに学びたい」と早大の門をたたき、18年11月にはオンラインでのカウンセリングも開始した。
しかし、テレビで乃木坂46が映っていると反射的にチャンネルを変えてしまう。楽しかった感情よりも、大変だった記憶が強くよみがえる。たどりついた解釈は「乃木坂は私にとってトラウマになっている」。
大学ではストレス研究に関心
卒業して1年半ほどたったある日、久しぶりにライブ映像を見たいと思った。スマートフォンの過去の動画を遡ったりもした。19年夏には明治神宮球場でのライブに一人の観客として参加し、楽しめる自分を知った。
21年6月には自叙伝「ありがとう、わたし~乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで」(文芸春秋)を出版。「アイドル時代に自分の可能性を諦めずに開拓してくれたからこそ今がある。その当時の自分に『ありがとう』と言いたい」と吹っ切れたのも、カウンセラーとしての自信がついた表れだろう。
大学では他人の評価を気にするあまり、過剰に適応する子どものストレスへの気づきをテーマに研究したいと考える。かつての自分を重ね合わせているのかもしれない。
(編集委員 木村恭子)
[日本経済新聞朝刊 2021年9月27日付]
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