麦焼酎を本樽で長期熟成 福岡・篠崎のリキュール朝倉

福岡県朝倉市の老舗酒蔵、篠崎のリキュール「朝倉」は麦焼酎を木樽で長期熟成させた。アドレナリンの発見などで知られる高峰譲吉博士が考案した、原料に同じ大麦を使うウイスキーの製法を踏襲。熟成がもたらすまろやかな口当たりと華やかな香りは上質なモルトウイスキーと肩を並べる。
筑後川沿いに広がる筑後平野では古くから麦の栽培が盛んだ。篠崎は「国菊」などの日本酒を手掛ける傍ら地元産の原料を使った焼酎造りにも進出し、現在は麦のほか芋、コメと裾野を広げる。主力は朝倉の原型ともいえる熟成麦焼酎「千年の眠り」で本格焼酎として高い評価を得ている。

「父から聞いた『麹(こうじ)で造ったウイスキー』を実現できないかと考えた」。創業家の8代目、篠崎倫明経営企画部長は朝倉を開発したきっかけをこう話す。子どもの頃に家業を手伝っている際、篠崎博之社長から三共(現第一三共)の初代社長で実業家でもあった高峰博士が米国でのウイスキー造りに関わっていた話を聞いた。
高峰博士は130年以上前、ウイスキーの原酒造りに際して主流の麦芽ではなく麹を使ってデンプンを分解する製法を考案。米国で実用化を試みたが、曲折があり日の目を見なかった。ただ、麹を使って造る麦焼酎は荒々しい麦芽由来の原酒と違い「そのまま酒として飲める品質のもの」(篠崎部長)。繊細な味わいはそのままに熟成がもたらす複雑な香りをまとえば、「本家」と遜色のない品質を実現できるのでは、との着想を得た。
熟成させる木樽は試行錯誤の末、バーボンウイスキーの熟成に用いられるアメリカンホワイトオークという種類にたどり着いた。麦焼酎は1回の蒸留だが、原酒についてはより雑味を減らすため2回とした。原則として8年間貯蔵し、最後にブレンダーが各樽(たる)ごとの個性を把握した上で調合して完成する。

酒税法上、熟成でもたらされた琥珀(こはく)色の状態では焼酎として販売できないため、リキュールとしての販売となった。ろ過すれば色味はなくなるが、風味も薄れてしまうためだ。シェリー酒やブランデーの熟成に用いた樽や国産の桜の木から作った樽で追加熟成した製品も加え、様々な味が楽しめるようにしている。
発売後は地元のみならず全国からも注文があり、売れ行きは好調だ。2021年には高峰博士が苦杯をなめた米国向けに味を再調整した姉妹商品「TAKAMINE」を発売。世界的な日本産ウイスキー人気も追い風に順調な滑り出しだ。
20年12月には福岡市内や首都圏のバーと組み、朝倉をベースにした各店オリジナルのカクテルを瓶に詰めた「ボトルドカクテル」を商品化した。2度のクラウドファンディングで資金を調達し、いずれも出資者に商品を届けた。「次は海外のバーテンダーとのコラボを考えている」(篠崎部長)。日本発の新たなスピリッツが秘める可能性はその香りと同様、時間と共にますます広がりそうだ。
(西部支社 山田和馬)

[日本経済新聞電子版 2022年1月27日付]
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