カベルネの先駆け「義男畑」 集大成のワイン完成
サクランボやブドウの生産が盛んな山形県。中でも屈指の果実産出額を誇る上山市には、蔵王山麓に数々のワイナリーが点在している。そんな「かみのやまワイン」の原点となったブドウ畑を締めくくるワインが今秋、完成した。ウッディファーム&ワイナリーの「ヨシオ カベルネ・ソーヴィニョン2019」だ。

生食用ブドウが全盛だった1974年。木村義広・蔵王ウッディファーム社長の父、義男さんは「付加価値を高める必要がある」と大手ワインメーカーと契約し、ワイン専用品種カベルネ・ソーヴィニョンの栽培を始めた。今でこそ高い知名度を誇るカベルネだが、当時は展望も読みにくく、大きな決断だったという。
呑岡山の標高約300メートルの斜面に開いた約20アールの畑は、適度な粘土質の土壌などがブドウ栽培に適していた。排水も良く、成熟期に水分を嫌うカベルネには好都合だった。気温や降水量、日照時間の長さなどの自然条件も味方して、糖酸度のバランスがいいカベルネが育った。
上山市の2020年のカベルネ栽培面積は約11ヘクタール、ワイン用ブドウ全体は約47ヘクタールに達する。この先駆けともなった義男さんの畑を、人々は今、親しみを込めて「義男畑」と呼ぶ。義広社長は13年に自社ワイナリーを開設したが、その後も義男さんは「ここだけは任せて」と畑を管理してきた。

その義男さんが19年、当時92歳だった自身の体調を考え「20年の収穫を最後にする」と決断した。その年のブドウで造った「ヨシオ カベルネ」が1日、発売された。野生酵母のみで醸した辛口の赤。ひと口飲んだ義広社長は「これまでのカベルネの中で一番おいしい。私たちにとってのレガシー(遺産)になる」とつぶやいた。
ウッディファームは自社の畑で育てたブドウだけを使う典型的なドメーヌ・ワイナリーだ。土壌や地形、気象条件など蔵王の恵まれたテロワールを生かし、9ヘクタールで赤のカベルネやメルロー、白のアルバリーニョやプティ・マンサンなど9品種を育てている。年産量は約3万本。ワイナリーでは2階で搾った果汁を1階のタンクに送って醸造する。ポンプを使わず、重力で流し入れることで「果汁に負荷をかけない」(義広社長)。
自信作は「やはりカベルネ」だ。この土地のカベルネは「10月まで成熟させてもしっかり酸が残る」といい「タンニンや独特の香りがクセになる、ハッキリした味わいに仕上がる」。固定ファンも多く、世界経済フォーラムのダボス会議の料理総責任監修を務めた奥田政行シェフも「毎年秋に味わいに来てくれる」。
義男畑のカベルネは、ワイナリー開設10周年となる来秋、20年産ブドウで造った製品が完成し、大団円を迎える。跡地には今春、温暖化に強いとされるシラーを植えた。色が濃く、酸もある品種で「土地の個性を出しにくい培養酵母は使わず、野生酵母だけで造りたい」という。4~5年後が楽しみだ。
(山形支局長 増渕稔)

[日本経済新聞電子版 2022年10月27日付]
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