ポテトサラダの味の決め手 「熱々」と「冷まし具合」

ポテトサラダは定番だが、下ごしらえがちょっとめんどうなお総菜だ。ひと手間ひと手間の意味を理解すれば、忙しいときに手を抜くことも、きっちり作ることもできる。
ポテトサラダのレシピには様々な具材や作り方があるが、どんなレシピでも「ジャガイモは熱いうちに潰し、マヨネーズは冷めてから加える」を守るだけで格段に仕上がりが良くなる。
ジャガイモをゆでると細胞同士を接着しているペクチンが溶けてやわらかくなり、細胞と細胞がはがれやすくなる。ここですかさずマッシャーや木べらを使えば、さほど力を加えずにほろりと崩すことができる。ところが時間がたって冷めてくると、細胞の間に残ったペクチンが硬くなり、力を入れてもはがれにくくなってしまう。無理に潰そうとすると細胞の膜が破れ、デンプンが流れ出してしまうので、糊のような粘りが出てベタッとした感触になる。
なお、ジャガイモをゆでる際はお湯に1%程度の塩を入れるといい。下味がついて味なじみが良くなるだけでなく、ペクチンが溶け出しやすくなり、やわらかくなるまでの時間を短縮する効果がある。また、2%程度の砂糖を入れると保水効果によってパサつきにくくなる。しっとりとした仕上がりが好きな人や、時間がたってから食べる場合に試してもよいだろう。
マヨネーズはジャガイモの粗熱が取れてから加える。マヨネーズの主な材料である酢と油は本来混ざり合わない。しかし、卵黄に含まれるタンパク質には、酢と油の間を取り持って乳化させる作用があり、マヨネーズはこれによって酢と油が混ざり合ったような状態を作り出している。
ところが、このタンパク質は熱に弱いので、熱が加わると変性して乳化状態を保てなくなり、マヨネーズは酢と油に分かれてしまう。そのため、熱々のジャガイモにマヨネーズを加えると、油が分離してベタベタ、テカテカとした仕上がりになってしまうのだ。タンパク質の変性を防ぐためには、完全に冷えるまで待つ必要はない。触ったときに「熱い」ではなく「温かい」と思うくらいが目安だ。

野菜の下ごしらえも仕上がりに影響する。ジャガイモ以外の野菜は加熱するか塩もみしてから加えるとよい。
細胞を包んでいる膜は、水を通すが塩分などは通しにくい。このような膜では、浸透圧によって塩分濃度の薄い方から濃い方へと水分が染み出す現象が起こる。したがって、塩分を含む調味料で生野菜をあえると、細胞の中から外へ水分が染み出してくるので、時間がたつと水っぽくぐずぐずとしてしまう。
ポテトサラダのように、交ぜて少しなじませてから食べることの多い料理では、塩もみしてあらかじめ水分を出しておくか、加熱して浸透圧がはたらかないようにしておく。交ぜてすぐに食べる場合は、必ずしも塩もみや加熱をしなくてよいともいえる。
キュウリは塩もみをして、ニンジンはゆでるか電子レンジ加熱してから加えるレシピが多いようだ。玉ネギは塩もみをしてさっと洗ってから加えると、ほどよく辛味が抜けておいしいが、玉ネギの辛味成分・硫化アリルは熱に弱いので、マイルドに仕上げたい場合は電子レンジで加熱してから加えてもよい。
このように、ポテトサラダをおいしく作ろうとすると何かと手間暇がかかるので、いっそ出来合いのものを買ってくるのもよいだろう。
もちろん、手作りならではの良さもある。例えばジャガイモ自体のおいしさを味わいやすいのは、できてから時間がたたないうちなので、手作りに軍配が上がる。
野菜を加熱すると、細胞膜が壊れて水以外の成分も出入りできるようになるため、調味料の味がジャガイモや具に染み込みやすくなる。できたてでは、調味料の味は主にイモや具の表面についているので、かんだときにジャガイモの甘みなど、食材そのものの持ち味を感じやすい。そして、時間がたつにつれて徐々に調味料が染み込んでいき、味がなじんで均一になる。
どちらがよりよいというものではなく好みの問題だが、できたてを食べたり、食べるタイミングから逆算して好みのなじみ加減に調節したりできるのは、手作りだからこその楽しみ方といえるだろう。
◇ ◇ ◇
ゆで2分、塩もみいらず

キュウリはゆでてから薄切りにすると、塩もみをしなくてもポテトサラダによくなじみ、水分が出てしまうのも防げる。キュウリといえば生で食べるもの、というイメージが強いので抵抗があるかもしれないが、だまされたと思って試してみてほしい。
端を切り落として長さを半分に切り、沸騰したお湯で2分ゆでてから取り出す。ジャガイモをゆでている鍋にポイっと入れれば洗い物もお湯をわかす手間も省ける。さっと水にひたして粗熱をとり、薄切りにして手でぎゅっと絞ったら下ごしらえ完了だ。
(科学する料理研究家 平松 サリー)
[NIKKEIプラス1 2021年9月25日付]
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