ペナシュール房総 千葉でラム酒、サトウキビも生産

千葉県の房総半島南端でラム酒造りの挑戦が始まった。カリブの島々の特産品で日本でも主に南西諸島などで醸造されるが、東日本で原料のサトウキビ栽培から一貫して手掛けるのは例がない。「BOSOラム」として世界に発信したいと事業者は意気込む。
「こんなところに本当にあるんですか」。最寄りのJR内房線千倉駅(南房総市)から車で約10分。地元タクシーのベテラン運転手もいぶかるほどの細い山道を抜けると「房総大井倉蒸溜所」という黄色の看板が目に飛び込んできた。
立派な門構えの古民家を改装した施設内の巨大な蒸留器はフル稼働中。サトウキビの搾り汁に酵母を加えて発酵させた「もろみ」を釜で熱し、蒸気になったアルコール分が塔のような部分で冷やされて出てきた透明な滴りが原酒となる。
「試してみますか」。醸造所を営むペナシュール房総(同)の青木大成社長にできたてを勧められた。口に含むと深い甘みと複雑な香りが余韻を残す。世界でもラム酒生産量の1割足らずという希少な「アグリコール」という種類だ。
近くで2022年12月に刈り取りを始めたサトウキビを絞ってすぐに発酵させ蒸留する。収穫後は変質しやすいため、アグリコールは畑が間近な産地でしか造れない。

蒸留所では、搾り汁を煮詰めたシロップを醸造する「ハイテストモラセス」、外部の製糖工場から得る糖蜜が原料の「トラディショナル」を含めラム酒の3製法をすべて扱う。2つある蒸留器を使い分け、個性豊かなクラフトラムを目指す。
青木社長は東京都内で飲食店などに勤めた後にUターン。千倉漁港近くにある家業の寿司割烹(すしかっぽう)の経営を継いだ。子どもの頃まで地元で生産が盛んだったサトウキビによる酒造りの夢を周囲に語るうちに仲間が広がった。
手始めにサトウキビの復活をと、19年に耕作放棄地で栽培を始めたが、同年秋の相次ぐ大型台風で多くが倒れた。ところが、しばらくすると葉が上に向かって伸び始め、「その姿にも力づけられて事業化を決意した」。
千葉県内の起業家が事業案を競うコンテストで20年に大賞を受賞したことも後押しした。農地所有適格法人を立ち上げサトウキビ栽培を拡大。22年7月にスピリッツの酒造免許を得て初の仕込みにこぎつけた。
まずはクラウドファンディングで施設や設備の資金を提供してくれた支援者への返礼品として小瓶入りの限定品を2月以降に届ける。700ミリリットル入りの通常品は5〜6月に販売を予定する。年間2万リットルの醸造を当面の目標とする。一部はたるで貯蔵し、琥珀(こはく)色の「ダーク」「ゴールド」として商品化する。
県内の製菓職人とラム酒を生かしたスイーツを開発するほか、醸造所に試飲スペースや宿泊所を併設する計画もあり、地域活性化にも一役買う。「24年のパリ五輪に合わせてラム酒が人気のフランスにも届けたい」と海外展開も思い描く。
(千葉支局長 真鍋正巳)

[日本経済新聞電子版 2023年1月26日付]
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