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いいちこの三和酒類が清酒づくり ワイン感覚の味わい

NIKKEI STYLE

大分県北部の穀倉地帯では酒造りが盛んだ。1958年設立の三和酒類(宇佐市)は本格麦焼酎「いいちこ」(79年発売)で知られるが、祖業は日本酒。共同瓶詰め場としてのスタート当初から「和香牡丹(わかぼたん)」ブランドの清酒を売ってきた。近年は地元でとれる食用米(飯米)でワイン感覚の酒も醸し、品評会で高評価を得ている。

JR日豊本線柳ケ浦駅から車で約20分。三和酒類本社工場は草創期に手がけたミカン農園の跡地に立つ。町はずれの山あい。適度にミネラル成分を含む軟水を地下300メートルからくみ上げ、焼酎や清酒を造る。いいちこ関連設備に交じり、清酒の「虚空乃蔵」もある。

蔵人たちは分け隔てなく意見を出し合い、「丹念に一念に」酒を醸す。2013年に蔵をリニューアルした際に「地元産のコメで世界に羽ばたく」というコンセプトを加えた。原料には酒造好適米の「山田錦」なども使うが、宇佐産の食用米「ヒノヒカリ」に特にこだわっている。

もっとも、食用米を酒にする場合は酒造好適米より雑味が出やすいなどの課題がある。虚空乃蔵の佐藤貴裕氏は全国の蔵元を訪ねたり酒類総合研究所(広島県東広島市)の研修に参加したりするなかで4年ほど前に解決法を教わり、実践した。

一つが洗米だ。機械で洗う量を1回10キロと従来の3分の1に減らし、シャワーを使うすすぎ工程も追加。コメぬかを丁寧に洗い流すことで品質がグンと向上した。もう一つがこうじ。手造りする際の容器を木製からプラスチック製に切り替えた。コメの1粒ずつに菌がきちんと生え、甘み豊かなこうじを確実に造れるようになった。

こうして工夫した「和香牡丹 純米吟醸 ヒノヒカリ50」は「ワイングラスでおいしい日本酒アワード2020」のプレミアム純米部門で最高金賞を得た。清酒営業担当の桃田貴光氏が言う。「食用米で醸した酒がこの賞を取った意義は非常に大きい」。同じくヒノヒカリで造るがオーソドックスな味わいの「本醸造 和香牡丹」も「全国燗酒コンテスト2020」のお値打ち熱燗部門で最高金賞に。現在、三和酒類が出荷する清酒の8割以上でヒノヒカリを使う。

虚空乃蔵は一般客の見学を受け入れていないが、22年5月開業予定の新施設「辛島虚空乃蔵」がニーズの受け皿となる。宇佐市が20年に「清酒特区」の認定を受けたことを活用。小規模な清酒製造場などを整え、半日程度の気軽な仕込みなどを体験できるようにする。「辛島で様々なタイプの清酒を少量ずつ醸して売り、特に好評なものは本社工場で本格的に造る好循環につなげたい」と佐藤氏は期待する。

今後目指すのが「ワイン好きも飲み飽きない日本酒」。50年前に始めたワイン事業を受け持つ古屋浩二執行役員が8月から清酒事業も兼務している。三和酒類は「変容と新生」をスローガンに掲げて第2の創業に挑戦中だ。古屋氏は「攻めの姿勢で新たな伝統をつくりたい」と意気込んでいる。

(大分支局長 松尾哲司)

[日本経済新聞電子版 2021年11月25日付]

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