ソース味に負けないスパークリング 大阪産ワインの妙

大阪がかつて全国トップクラスのブドウ産地だったことをご存じだろうか。戦後の宅地化で衰えたが今もデラウェアを中心に多くの畑が残る。通常は生で食べるそのデラを使って、大阪らしいワインを造ろうとしているのがカタシモワイナリー(大阪府柏原市)だ。
息を切らしてブドウ畑の急斜面を登ると、眼下は住宅がびっしり。その先には大阪中心部の高層ビルもくっきり見える。「ここからの景色ええやろ。子どものころは、住宅のところも一面ブドウ畑やった」と代表の高井利洋さんは目を細める。
父からワイナリーを継いで以来、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなど欧州系の品種を植えてきた。約30年前に加わったのがデラウェアだ。「廃業する農家から畑を引き受けてくれと頼まれて、植え替えよう思ってたがごっつカネかかる」
それならばと、デラのワイン造りに挑み始めた。香りが甘すぎて不向きといわれるが、酵母菌など試行錯誤を繰り返し、デラの良さを引き出せるようになった。

まずは、白ワインにしたときの多彩な味と香りだ。「早い時期に収穫したデラウェアはさっぱりしていて酸が残り、かんきつ系の香りになる。一方で完熟させると甘みが増し、香りは蜂蜜やマンゴーを思わせる」
早採りのデラで造ったという、高井さんおすすめの「つむぐ 大阪産デラウェア2021」を飲んでみた。お米をあまり削っていない純米酒のようなしっかりした味わいで、爽やかな酸味が口のなかに広がる。
瓶のなかで二次発酵させるスパークリングワインも、うま味の多いデラの特長が生きる。10年発売の「たこシャン」は大阪名物、たこ焼きのソース味に負けないフルーティーな味わい。ネーミングの妙もあって人気だ。
デラのもう一つの強みは栽培しやすさ。温暖化が進んでも病気になりにくいため、農薬はほとんど使わずにすむ。生食用はタネをなくすための薬剤処理が栽培の負担になっているが、「ワインはタネがあるほうがおいしい」(高井さん)。

衰えたとはいえ、大阪府はデラウェアの栽培面積で全国3位。自社畑で足りない分を近隣から調達することで、ブドウ農家の存続にもつながる。
数年前、アジア各国への輸出のため現地を巡った高井さんは、欧州産ワインが市場を席巻している様を目の当たりにした。「日本産ワインが欧州系のブドウ品種を使っていては太刀打ちできない。オリジナルで勝負すべきだ」と自信を深めた。
デラウェアを使ったカタシモのワインは、19年に大阪で開かれたG20サミットの晩さん会に供されたほか、地域ブランドを国が保護する「地理的表示(GI)」の指定も受けている。

ワイナリーまでは、大阪中心部から電車と徒歩でわずか40分ほど。地の利を生かして、週末には昼食付きの見学会を開いている。新型コロナウイルスの収束次第だが、大阪ワインを深く知るにはもってこいだ。
(東大阪支局長 高橋圭介)

[日本経済新聞電子版 2022年2月24日付]
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