浜松の花の舞酒造、静岡県産米にこだわり

浜松市の中心部から北に約15キロ。石畳の残る古い町並みを進むと花の舞酒造(同市)の醸造所が現れる。静岡県産米や南アルプスの地下水など地域の恵みを生かした地酒造りにこだわる。近年はワイン酵母を使った日本酒など新機軸の商品開発にも力を注ぐ。伝統と革新の織りなす味わいが日本酒の裾野を広げる。
花の舞酒造の醸造所がある浜北区宮口の町は古くは門前町として栄え、かつては秋葉街道の宿場町としてにぎわったという。背後には南アルプス赤石山系の山々がそびえ、酒の仕込み水として使う天然水が湧き出す。
1864年に創業し、150年以上にわたりここで酒造りを続けてきた。2003年に大吟醸酒専用の仕込み蔵を設けるなど増築も重ねる。現在は年間1000キロリットル(一升瓶約55万本分)を生産し、県内や首都圏をはじめ全国の小売店や飲食店に販売する。
最大のこだわりは酒米だ。全商品に静岡県産米を使う。県外産の米はより安価で仕入れられる場合も多いが「地酒としての価値は地元の素材を使うかどうかで大きく変わる」と高田謙之丞社長は考える。兵庫県などで栽培され「酒米の王様」と呼ばれる酒造好適米の「山田錦」も、全て静岡県産を使うほどの徹底ぶりだ。
1998年、県内では珍しかった山田錦を本格生産するため、同社が中心となり生産者グループ「静岡山田錦研究会」を立ち上げた。長年の試行錯誤の末、本場の兵庫県産に劣らない品質にまで高めた。現在は所属する県西部27軒の契約農家が同社に山田錦を安定供給する。大吟醸酒など高価格帯を中心に約3割の商品に採用している。

日本酒業界にとっては国内需要が減少し、厳しい時代だ。だからこそ同社は近年、新機軸の日本酒造りにも力を入れる。代表的なのが2019年に発売した「アビス」シリーズだ。ワインの酵母を使って仕込み、白ワインのようなフルーティーで爽やかな味わいを表現した。
「ワインは明確なライバル。だからこそのアイデアだった」(高田社長)。若年層や女性など日本酒の消費が比較的少なかった層から支持を集める。ヨーグルトなどをブレンドした日本酒や、県産果実を使った低アルコールの微発泡酒なども相次ぎ投入している。
今、花の舞酒造は「会社全体がチャレンジ精神にあふれている」という。現場を指揮するのは20年に30歳の若さで酒蔵の責任者である杜氏(とうじ)に就任した鎌江慎太郎氏。宮城県の酒蔵で修業を積んだ。「年を重ね経験を積むと守りに入りがち。若いがゆえ、常に攻めの姿勢をとれる」と高田社長は評価する。
結果にも結びついており、全国新酒鑑評会で同社の大吟醸が2年連続で金賞を受賞した。「流行は変化し、消費者の舌も肥えている。守るべき伝統は守りつつ、新しいアイデアを融合させなければ勝ち残れない」と高田社長。時代の変化に柔軟に対応しながら新しい時代を切り開く。
(浜松支局 北戸明良)

[日本経済新聞電子版 2022年12月22日付]
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