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秋田の奥田酒造店、夫婦で切り盛り味穏やか「千代緑」

NIKKEI STYLE

コメどころの秋田県は酒どころでもある。協同組合メンバーの酒造会社は34社。首都圏に販路を持つ工場のような大手もあれば、従業員数人の小さな酒蔵もある。銘柄「千代緑」で親しまれる老舗の奥田酒造店(大仙市)は夫婦で経営を切り盛りし、地域に愛される酒蔵だ。

JR奥羽本線沿線には田んぼや山林が広がり、集落が点在する。秋田市の秋田駅から県南に向けて4つめの羽後境駅で降りると、江戸時代に奥州街道と並ぶ東北の二大街道だった羽州街道がある。道沿いに歩き10分ほどで左手に奥田酒造店が見えてくる。

店舗を兼ねた主屋は戦後を代表する建築家、白井晟一が設計した。1957年に完成した近代和風建築の建物は、2009年に国の登録有形文化財の指定を受けた。

創業は江戸時代の延宝年間(1673~81年)。県内では、にかほ市の飛良泉(ひらいずみ)本舗、湯沢市の木村酒造に次いで3番目に古い酒蔵だ。社長の奥田重徳さんは初代から数えて18代目で、製造責任者の杜氏(とうじ)も務める。

「千代緑は手造りの、やさしくて穏やかな味わいのお酒だ」。地元の大仙市で酒販店を営むカネトク卸総合センター社長の小西亨一郎さんはこう評する。そしてこう付け加えた。「そのお酒は社長の人柄を映しているようだ」

小西さんの言葉通り、奥田さんと話して感じるのは、その穏やかな人柄だ。酒造りの信条は「基本に忠実に、丁寧に」。背伸びをせず、身の丈に合った経営スタイルを貫く。それもまた、酒の味わいと無関係ではあるまい。

このスタイルには、無理して規模を拡大するつもりはない、という固い意志が込められている。あくまで自分の目が行き届く範囲で責任を持ち酒を造り続ける。そして次代につなぐ。根幹には脈々と受け継いできた「家業」への強い責任感と誇りがある。

奥田さんが醸造と営業を担い、妻の聖名子(みなこ)さんが経理などで経営を支える。奥田さんのひととなりや技術に信頼を寄せ、県内の酒販店がプライベートブランド(PB)の酒造りを依頼する。

奥田さんが総代長を務める唐松神社が近くにある。子宝に恵まれるよう祈願したり安産をお祈りしたりする神社として有名だ。新型コロナウイルス禍の以前は海外からも参拝者があり、年間5万~6万人もの人々が訪れていたという。

4月上旬に訪ねると、多くの夫婦や子ども連れでにぎわっていた。境内は全国でも珍しい造りだ。社殿は通常最も高い位置にあるが、唐松神社の場合、最も低い位置にある。参道には樹齢350年前後の秋田杉の並木が続いている。

例祭が5月3日にある。前日の宵宮には、聖名子さんら敬神婦人会のメンバーが参拝者らにお神酒を振る舞う。もちろん、そのお酒は千代緑。奥田さんは「地域の神社を守り、もり立てていきたい」と穏やかに話す。

(秋田支局長 磯貝守也)

[日本経済新聞電子版 2022年4月21日付]

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