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ごみゼロの町でエコなビール 徳島「ライズ&ウィン」

NIKKEI STYLE

日本初の「ごみゼロ宣言」で知られる徳島県上勝町で、2015年に開業したビール工房のライズ&ウィン・ブリューイングカンパニー。醸造で出るモルトかすを微生物を使って液体肥料にし、自社農場にまいて大麦を育てた。11月上旬に数量限定で発売予定の「リライズビール」は、ごみゼロの町から生まれた新しい環境対応の商品だ。

徳島駅から車で約1時間。標高700メートルほどの山間部にある人口1500人の町、それが上勝町だ。03年に日本の自治体で初めて地域から出るごみをゼロにすると宣言。生ごみは各世帯で堆肥化し、その他のごみは町で唯一の収集所「ゼロ・ウェイストセンター」に持ち込んで45種類に分別する。地域で出るごみの8割以上をリサイクルにつなげている。

ライズ&ウィンも地元の食材を余すことなく使おうと、絞った後の柚香(ゆこう)の果皮や規格外の鳴門金時などを使って地ビールをつくり、併設する飲食店などで販売してきた。専用瓶での量り売りも手がける。ただ「1回の醸造で600キログラム、年間20トン余り出るモルトかすの処理が課題だった」と店長の池添亜希さんは話す。

従来は1~2カ月かけて堆肥化し、地域の農家に分けていた。だが過疎と高齢化で引き取り手は先細りが避けられない。打開策として21年秋、微生物を使って短時間で液肥ができる装置を群馬県の企業から購入した。畑にまくだけの液肥は使い勝手もいい。農家や畜産家、町民に無償で提供する一方、自社農場も整備して大麦などの栽培を始めた。

「農場といっても、クワを手に土の中の石を掘り出すところから始めた」と池添さんは苦笑する。5~6人の従業員も大半は未経験。近所から農機を借り、液肥をまき、栽培の助言を受けながら今年5月に最初の収穫を迎えた。それを仕込んだのが新商品のリライズビールだ。「大麦の甘みが生きた、飲みやすい風味に仕上がった」という。

池添さんらは並行して液肥を使った稲作にも挑戦しており、9月下旬に収穫を終えた。その米を使ったライスビールも今冬に発売を予定する。「大麦も米も、地域の人たちの温かい応援があってはじめて栽培ができた。ビールを飲む際は、おいしさだけでなく『地域の思い』も味わってほしい」と池添さんは話す。

ライズ&ウィンに勤めて4年半。徳島市から上勝町に家族と移住した池添さんは「地域の語り部」の一人でもある。今春から「LEARN KAMIKATZ(ラーン・カミカツ)」と題し、昼食付きで1時間ほどの対話イベントを始めた。循環型のビールづくりやごみゼロ活動、地域の高齢者が刺し身用のツマなどを出荷する葉っぱビジネスの話題などを来店者に話している。

東京都港区の桜田通り沿いにも、ライズ&ウィンの直営店がある。柚香を使った「モーニングサマー」や、マイルドで飲みやすい英国風の「ペールエール」などの上勝ビールと食事が味わえる。(徳島支局長 管野宏哉)

[日本経済新聞電子版 2022年10月20日付]

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