富山の立山酒造 地の利生かして「水の味がする酒」

5本の1級河川を持ち、水に恵まれた富山県。その日本酒出荷量の半分を占める立山酒造(富山県砺波市)は地の利を生かし、水の味がする飲みやすい酒造りを目指している。酒米を選別し磨く過程では機械を駆使する一方、味造りの要所では大学や海外で学んだ社員の知識や感性を生かす。
立山酒造は2022年、酒造りを始めて150年余の歴史で初めての営業組織を東京・渋谷に設けた。新型コロナウイルス禍で落ち込んだすし店や居酒屋の需要を開拓するためだ。従来は歴代社長が卸などにトップセールスをする程度だった。それでも大都市圏で一定の知名度があるのは、味を支持する消費者や店舗が根強くいるからだろう。
岡本泰明社長は同社の酒の味わいを「水の味がする」「すべっこい」という2つの言葉で表現する。
「水」は工場がある富山県西部を流れる1級河川、庄川由来の仕込み水だ。使用する井戸水は酒の味を邪魔する成分が少ないことが、検査機関の分析で確認されている。水の味がそのまま生きる酒造りを心がける。
もう一つの「すべっこい」とは、滑らかなという意味だ。同社の酒造りに長年かかわった杜氏(とうじ)の言葉で、技術を引き継ぐ醸造部の堅田知徳さんによると「舌にまとわりつかず、ごくっと飲みたくなる酒」。岡本社長は「ぬる燗(かん)ですしと一緒に味わってほしい」と勧める。
約80億円と地方の酒造会社としては大きな投資で造った工場や関連施設に入った。酒米は光選別機にかけ、成熟の遅いコメなどを除去する。酒造会社が設備を持ち自社で米を選別する例は全国でもわずかという。

雑味の原因となる栄養素を減らすために表層部を削る精米工程では、コンピューター制御の機械を使う。磨き具合を臨機応変に変え、その年のコメにあった酒造りをするためだ。同社の場合、純米大吟醸なら米粒の63%を削るのが通例だ。
その後、蒸した酒米に麹(こうじ)菌をふりかけて麹を育て、酒を仕込む工程に入る。ここから先は人間の感覚に頼る。携わる社員は「酒米の質により、どのくらいの温度の水をどれだけ吸わせるかを変える」という。コメを口に含み、軟らかさを確認する作業を繰り返す。麹菌の繁殖度合いなど、目視に頼る判断も多い。

正しく味を評価できる人材がいるかが重要だ。立山酒造には独立行政法人の酒類総合研究所が認定する「清酒専門評価者」が3人いる。3人以上を抱えるのは「久保田」の朝日酒造(新潟県長岡市)など数少ない。データ化できる作業は機械に委ねる一方、人の直感を生かして味を磨く。
入社後、山梨大に派遣されて日本酒と同じく醸造酒であるワインを研究して分析法を学んだ人や、欧州で現地の酒や料理に接する研修を7回経験した人もいる。新たな知見を得た人材が立山酒造の次の歴史を紡いでいく。
(富山支局長 国司田拓児)

[日本経済新聞電子版 2023年1月19日付]
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