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兵庫・灘五郷、飲み比べ楽しむ「酒所」で文化発信

NIKKEI STYLE

兵庫県西宮市から神戸市の沿岸部に約25の酒蔵が集積する「灘五郷」。江戸時代から続く日本酒の一大生産地で、各蔵が技術交流しながら品質向上を図ってきた。現地に灘五郷すべての蔵の酒を飲める「酒所」が4月にオープンし、新たな文化発信拠点となっている。

剣菱酒造(神戸市東灘区)の酒蔵だった建物を改装し、4月下旬にオープンしたのが「灘五郷酒所」だ。全長約50メートルのコの字形カウンターでの立ち飲みで、冷蔵ケースには約50種の日本酒がそろっている。

営業は金、土、日曜日と祝日のみ。3皿の料理と5種類の日本酒のセットが人気で、料理と酒のペアリングの妙が楽しめる。初めて来たという大学生の女性(20)は「いろんなお酒を楽しめるし、料理と合わせた際のお酒の味わいがメニューに書かれてあるのでわかりやすい」と話す。

毎週末に多いときは900人ほどが来店し、ゴールデンウイークには約2000人が訪れた。県外から来る人も多い。酒蔵の経営者や技術者らが自社の蔵や酒を語るセミナーも不定期で開催している。運営会社の坂野雅社長は「飲食店という存在にとどまらず、日本一の酒どころの歴史や文化を発信する拠点にしたい。『日本酒っておもしろい』というきっかけづくりになれたら」と語る。

灘五郷すべての蔵の酒を置くのは、場所を提供した剣菱酒造の白樫政孝社長のアイデアでもあった。「大手メーカーを中心に灘五郷の技術力は本当に高い。建物の活用策を考えたとき資料館などをつくるより、酒を飲み比べ、その技術力の高さを体感できたらおもしろいと思った」

灘五郷でもう一つ飲み比べを楽しめるのが、統一ブランド商品「灘の生一本」だ。兵庫県産米のみを使った純米酒で、灘酒研究会の酒質審査委員会が味や香りの表現を審査したうえで統一ラベルで販売する。2011年から発売を始め、22年は8社が9月6日に一斉に発売する。

灘の生一本は酒の特徴を消費者に正しく、わかりやすく伝えることを通じて、灘五郷の酒をアピールする目的で始まった。ラベルに書かれた表現をもとに商品を選び、飲んで酒の特徴を実感してもらおうという取り組みだ。

灘の生一本を発売する各蔵は風味の特徴を酒質審査委員会に提出。22年は18人の審査員が味や香りを審査し、提出された酒質表現が実際に認められるか評価した。委員長を務める「浜福鶴」杜氏(とうじ)の松村英樹氏は「酒質の表現が妥当かどうかは審査員が厳しくチェックする」と話す。

灘酒研究会は1917年(大正6年)に灘五郷の技術者らがつくった歴史ある組織で、コメを含めて日本酒製造の技術向上に取り組んできた。他県での酒造りの経験もある松村氏は「灘五郷は技術交流が非常に活発で驚いた」と話す。各蔵は長い年月、切磋琢磨(せっさたくま)してきた高い技術力を武器に、多様な日本酒を生み出している。

(神戸支局長 岩本隆)

[日本経済新聞電子版 2022年8月18日付]

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