石川・能登の数馬酒蔵「いか純米」 地域の魅力伝える

世界農業遺産に認定された石川県能登半島で、地域の魅力を高める酒造りを志しているのが数馬酒造(能登町)だ。能登町は北海道の函館、青森県の八戸と並ぶ日本三大イカの町。近年はイカの巨像「イカキング」でも話題だ。特産品を応援するため、地元の海洋深層水や海藻酵母で、イカにとことん合う酒を醸す。
能登半島の風土や人々を表現するとき「能登はやさしや土までも」とよくいわれる。四季を通じて数百種の天然の魚介類がとれ、里山では米を中心に伝統的な野菜や果物が育つ。自然と人々の暮らしが穏やかに調和する地域として、国連食糧農業機関(FAO)は2011年、「能登の里山里海」を日本初の世界農業遺産に認定した。
金沢の美食を支えているのも能登半島だ。大きな漁港がある輪島市の漁獲状況により、金沢市内の魚の値段や品ぞろえが変わるといわれる。人口は減少傾向にあるが、豊かな自然と食材に恵まれた能登を、酒造りを通じて盛り上げているのが数馬酒造だ。
金沢から車や公共交通機関で2~3時間。透明度の高い海に真っ白い漁船が停泊する港のそばに数馬酒造がある。通年商品の大吟醸から季節限定のにごり酒まで様々な日本酒が並ぶ中、ひときわ目を引くのが「地域食材特化シリーズ」の棚にある「竹葉 いか純米」(720ミリリットル1870円)だ。

日本有数の水揚げ量を誇るスルメイカの魅力を発信しようと、東京大学の学生らと開発。酒米は能登産100%。能登の海藻から抽出した酵母で醸し、仕込み水には海洋深層水を使い地元の素材をフル活用している。
メープルシロップやはちみつを思わせる甘いふくよかな香りに、しっかりと重心を感じる味わいで、イカのねっとりとした甘みや酸味に調和する。温度によって風味が変わるのも特徴だ。刺し身には米のうま味を感じられる常温で、香ばしい焼きイカには切れのある冷酒、甘い煮付けにはまろやかで甘みが一段と増す熱かんがおすすめという。
イカの巨像「イカキング」の隣には、加工品やスイーツなどイカ関連商品200種類近くが並ぶ道の駅「イカの駅 つくモール」があるが、こちらでも大人気の日本酒だ。「地域食材特化シリーズ」にはイカのほかに能登牛やオイスター、ジビエ、鶏があり、能登産食材との相性の良さを追求している。酒販店や同社ホームページで購入できる。

能登の自然にいかされているから「能登の地を豊かで持続可能な環境にしていくことが当社の使命」と数馬嘉一郎社長は語る。過疎化で農業の担い手が減る中、美しい景観を守るため米作りにも挑む。2014年から若手農家と連携し、すでに東京ドーム6個分の耕作放棄地を水田に戻した。
大豆や小麦、梅の木を植樹し、しょうゆや梅酒も造る。経営理念は「能登を醸す」。地域資源の価値を最大化し「能登の魅力を高め続ける企業でありたい」と話す。(金沢支局 佐々木たくみ)

[日本経済新聞電子版 2022年11月17日付]
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