埼玉・秩父の兎田ワイナリー、地元ブドウにこだわる

2023年のえと、卯(う)年に飛躍を期す国産ワインの醸造所が、埼玉県秩父市の奥地にある。秩父ファーマーズファクトリー(同市)が運営する「兎田(うさぎだ)ワイナリー」だ。15年開設と新しい醸造所だが、質の高い地元産ブドウにこだわったワインの評価は高い。直営のレストランには県内外から多くの人が集まる。
西武鉄道の西武秩父駅から車で30分ほど。山々に囲まれた秩父市の下吉田地区に、兎田ワイナリーがある。2ヘクタールの土地には自社農園があり、ブドウ生産から醸造までを一貫して手掛ける。深田和彦社長は「昼と夜、季節ごとの寒暖差があり、比較的雨が少ない内陸性の気候はブドウ生産、ワイン製造に適している」と話す。
深田社長は秩父市内で農家を営む傍ら酒販店を運営し、約25年前から地元の日本酒酒蔵である矢尾本店にワインの製造を委託。15年ほど前、全国的なワインコンテストに出品したところ高い評価を得た。「将来は自社ブランドでワインを造る」と決めた。

深田社長は国内ワインの主要産地である山梨の業者に出入りし、醸造ノウハウを習得。ブドウを生産する農地は、埼玉県が管理する耕作放棄地を取得した。もともとこの土地は野生のウサギがよく出没したことから、「兎田」という地名だった。この珍しい名前をワイナリーの名前に入れた。
ワイン醸造にあたり、20軒以上の秩父地域の農家にワイン向けブドウの生産を依頼すると、快く応じてくれた。「秩父のワインは地元産のブドウで造りたい。山梨のブドウ生産者からの提供申し出も断った」。地元産にこだわったワインは味と香りのバランスがよく、食事とともに楽しめる製品がそろう。
マスカット・ベーリーA、メルローを使った標準的な製品のほか、ウイスキー樽(たる)での熟成やミズナラ材を浸漬(しんし)させたワインなどもある。今後はスパークリングワインの生産も検討し、販売先も県内から首都圏への拡大を模索する。

兎田ワイナリーの周辺ではイチゴ、ブルーベリーなども栽培され、「フルーツ街道」とも呼ばれる。そこで、これらを生かしたフルーツワインも製造し、ブドウの搾りかすを近くのイチゴ農園の肥料として再利用する取り組みも進む。
秩父はビール、ウイスキー、ワイン、日本酒、焼酎など多様な酒類の製造拠点がある。各酒蔵が加入する「ちちぶ乾杯共和国」という組織も活動しており、「酒好きが周遊できる環境にあるのが大きな強み」(深田社長)という。
23年は醸造所創設以来、初めての卯年とあって、記念ワインの生産に力を入れてきた。特にウサギラベルのロゼワインは人気が高い。新型コロナウイルス禍で休止していた醸造所見学も近く再開する予定だ。「他にはない、秩父に根ざしたワインを造る」。地元の恵みを生かして、特産品へと育てていく。
(さいたま支局 岩崎貴行)

[日本経済新聞電子版 2023年3月16日付]
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