中国・小圃、変幻自在なノマドワイナリー

中国ワイン業界の風雲児として知られる戴鴻靖(イアン・ダイ)氏のワイナリー「小圃(XiaoPu、シャオプ)」の勢いが止まらない。ワイン醸造の歴史は5年余りだが、上海の有名レストランでペアリングワインに選ばれるなど、著名ワインサイトで次々と高い評価を得ている。
北京から西へ約900キロメートル離れた、イスラム教徒が多く住む寧夏回族自治区銀川市。11〜13世紀に栄えた西夏王国が残した円すい型の陵墓が点在する賀蘭山の裾野は、戴氏が2017年にワイン醸造を始めた場所だ。
「黄金に輝く特別な味わいのワインとフォアグラを使った料理が互いを引き立てる」。ミシュランガイド上海で三つ星を獲得して中国で最も予約が取りにくいとされるレストラン「ウルトラバイオレット バイ ポール・ペレ」は、料理ごとにあわせるペアリングワインの一本に小圃のワイン「ビフォア・ミッドナイト」を選んだ。

それは戴氏が20年に寧夏から生みだしたプティ・マンサン種のブドウを使ったワインだ。希少品種なので生産できたのは200本だけ。黄金色の甘口ワインで、特別な味わいがウルトラバイオレットの目に留まった。
世界的に有名なワインサイト「ロバート・パーカー・ワイン・アドボケート」も1月、戴氏が寧夏で造った赤ワイン「ネイキッド」に92点の高評価を与えた。シラー種とマルスラン種を使ったワインだ。
実は、戴氏が経営する「小圃」は普通のワイナリーとは異なる。ある土地に根付いてブドウを育ててワインを醸造するのではない。各地の信頼できる農家と契約してブドウを調達し、醸造設備を用意してワインを造り出す「ノマド(遊牧民)ワイナリー」だ。
現在35歳の戴氏はオーストラリアで学生生活を送り、08年に中国に帰国した。10年の上海万博を前に海外からの旅行客が増えるなか、英語力を生かして上海の老舗「和平飯店」でソムリエとして働いたことをきっかけにワイン業界に入った。

その後、米アマゾン・ドット・コムの中国版サイトのワイン担当などを経て、自らワインを造り出したいとの思いを抱く。まだ若く資金力が乏しかったことから、世界のワイナリーや大学で醸造学を学んでいた仲間を巻き込んで、各地の農家などとタッグを組む現在の手法に行き着いた。
戴氏の取り組みは銀川から全国へと広がる。18年に雲南省やチベット自治区、四川省にまたがるシャングリラ地区、21年に河北省張家口市懐来地区、22年に甘粛省天水市へ進出。23年には四川省アバ・チベット族チャン族自治州でも醸造を手掛ける。
経済成長で中国のワイン消費は拡大したが、接待用途など高級ワインを志向するワイナリーも多い。だが、戴氏がめざすのは「手ごろな値段で日常生活を彩るワインを生み出す」ことだ。身の丈にあった経営で特徴のあるワインを生み出す小圃は、若い世代を中心に高い支持を得ている。
(銀川市で、多部田俊輔)

[日本経済新聞電子版 2023年2月16日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界