関西空港からアジアへ 大阪・泉佐野ブルーイング

関西国際空港の空港コード「KIX」を名乗るクラフトビールは、大阪・なんばと関西空港を結ぶ南海電気鉄道の高架下で醸造されている。この泉佐野ブルーイング(大阪府泉佐野市)での2020年7月の初蔵出しから2年。新型コロナウイルス禍を乗り越えて関西からアジアへ飛び立とうとしている。
関西空港の国際線の旅客数は17年に約2200万人とわずか6年で2倍強に伸びた。急増する訪日外国人(インバウンド)に地元の魅力を訴えたい。泉佐野市のブランド戦略を手掛けていたグランド・リミット(京都市)の許校沿社長は当時、国内各地で増えていた地ビールに着目した。
関西空港から帰国の途に就く訪日客に、土産として空港近くで醸造したビールを手にしてもらおう。そう考えた許氏は17年に醸造所を設ける構想を固めたが、空港近くで場所がみつからない。宿泊・飲食、流通業などの進出が相次いだためだ。
ようやく見つかったのが泉佐野駅とりんくうタウン駅を結ぶ南海空港線の高架下だった。南海の掲げる「沿線価値向上」にも合致し、約660平方メートルの土地を借り受けて19年に着工。約2億円を投じて年間生産能力70キロリットルの醸造所、泉佐野ブルーイングを新設した。
20年5月に大阪で3番目のクラフトビールとしての免許を取得し、6月に醸造を始め、7月に初蔵出しを迎えた。しかし、コロナ禍の世界的な広がりでインバウンドは「消滅」。各地のレストランなどで進めていた商談も「全てとまった」(許氏)。

ただ、醸造顧問の志村智弘氏にとっては「思い通りの味」を極めるのに醸造設備を「熟成」する機会となった。泉佐野ブルーイングとは設備メーカーの営業技術者として納入した醸造設備の説明で訪れたのが縁だった。
広島や神奈川のクラフトビールで醸造責任者を務めた20年余りの知見を踏まえて語る姿にほれ込んだ許氏が、「ここで造ってほしい」と引き抜いた。「醸造の現場に戻りたくてウズウズしていた」志村氏は、知り抜いた設備とともに「ワインより奥が深い」と語るビール造りに携わる。
滑走路を飛び立つ飛行機をイメージしたラベルのKIX BEERは21年に国際コンテストで金賞に輝いたアルコール度数8%のヴァイツェンボックなど6種類。志村氏は「いくらでも飲めるように、炭酸少なめ、苦みも抑えた」と話す。
「SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも規格外の果物を有効利用したい」(許氏)とモモやハッサクのフルーツビールも手掛ける。このうち和歌山県紀の川市産の果実を使った「ピーチ エール」は今月、品評会のフルーツビール部門で金賞を受賞した。
コロナ禍が落ち着きを見せ「売り込みを再開させたい」と許氏。11月の台湾進出を皮切りに「ベトナムなどアジア市場を開拓していく」。日本からの土産だけでなく、アジア各地の若者が「地元で味わったビールに関西空港で再会する姿も見てみたい」。
(堺支局長 高佐知宏)

[日本経済新聞電子版 2022年12月15日付]
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。