手に収まるミニ盆栽 室内に彩り、季節の変化楽しむ

手のひらに収まるくらいの「ミニ盆栽」が人気を集めている。庭がなくても室内に飾るなど気軽に楽しめて、生活に彩りを与えてくれる。育てるときの注意点や手入れの基本を教わった。
盆栽の「盆」とは鉢などの器を、「栽」は植物を意味する。小さな鉢の中に自然の風景を切り取って映し出す日本の伝統文化だ。海外でも「BONSAI」と呼ばれ、愛好家がいる。
少し前まで盆栽には「シニアの趣味」「なんだか難しそう」といったイメージを持つ人が多かったかもしれない。ただ近年は幅広い世代がミニ盆栽を楽しむようになっている。小ぶりで室内やマンションのベランダなど置く場所を選ばないこともあり、和の風情やモダンなインテリアとの調和を楽しむケースが増えているようだ。
「伝統的な盆栽は奥が深く、様々な決まり事があってハードルが高いと感じる人もいるだろうが、ミニ盆栽であれば手のひらサイズの庭を持つ感覚で気軽にできる。植物を育てる喜びや四季の移り変わりを感じられるのが魅力」。盆栽の新たなスタイルを提案する品品(東京・世田谷)代表の小林健二さんは話す。
ミニ盆栽の多くは直径10~20センチほどの大きさの鉢を使用。若い樹木を植え、土の上にコケを張ったり、化粧砂をのせたりして仕上げている。
植物の種類や大きさなどにもよるが、園芸店や雑貨店などで数千円程度から購入できる。ハサミやピンセットなど初心者用の道具セットをまとめて買う人も目立つ。
主体となる樹木は常緑樹や落葉樹、花が咲くものなど種類は様々。「最初は春の芽吹き、初夏の深緑、秋の紅葉、冬の立ち姿など、1年を通して変化する姿が見られ、初心者でも扱いやすいモミジがオススメ」と小林さん。
盆栽を育てると聞くと、ハサミで剪定(せんてい)する姿が思い浮かぶ。しかし実際には年に1~2回程度切ればすむものが多いという。剪定をもっと楽しみたい人は手入れするほど枝ぶりがよくなるニレケヤキなどを選ぶとよいそうだ。
普段の手入れでは「水をやって、日に当てて、伸びてきたら切るだけなので、それほど難しくはない。ただ季節によって調整することが必要」(小林さん)。

ミニ盆栽を始めたのにすぐ枯らしてしまったという声も聞かれるが、原因と考えられるのは主に水のやり忘れだという。水やりは単に水分を与えるだけでなく、酸素を十分に取り込めるようにする役割がある。鉢のコケや化粧砂の湿り具合を確認し、土が乾ききる前に水やりをしよう。
具体的にはどのようにすればいいのか。小林さんによると、道具としては霧吹きなどを使用。土全体に水が行き渡るように鉢の底から水が流れ出るまで与えるのが基本だ。タイミングは乾ききる前。植物が水を吸収し始める朝の時間帯のほか、「早起きが苦手なら夜のうちにすると楽」(小林さん)になる。植物が成長する春から夏にはたっぷりと、秋から冬は少し控えめにするとよい。
室内に置いたままでは日照不足に陥る可能性がある。適度に外に出して日に当てるのが望ましい。強い日光というよりは曇りの日の光や反射光程度で大丈夫だという。夜のうちに外へ出して午前中に取り込むなど生活スタイルに合わせて考えたい。高層マンションなどで外に出せないときは適度に日の当たる窓辺などを選ぼう。真夏の暑い時期は葉焼けや水切れを防ぐため、日中は日陰に置きたい。
植物が家にあると、気になって留守にできないと感じる人もいるだろう。ただ小林さんは「2~3日ならトレーなどに水を張り、鉢をつけておこう。夏であれば、できるだけ熱気のこもらない場所がよい」と助言する。
ミニ盆栽では土の乾燥を防ぐコケが重要な役割を果たす。他の草木類より手入れしやすく、実はコケだけの盆栽も人気だという。コケの専門店「道草」の石河(いしこ)英作さんは「かわいらしく、手にのせて観察するだけで、魅力を存分に味わえる」と語る。
興味がわいてきたら、盆栽教室に足を運んで知識を深めるのも手だ。手入れに慣れてくれば、苗や鉢を選ぶところから自分でつくってみると、楽しみが増す。観葉植物とはまたひと味異なるミニ盆栽。四季の移ろいや育てる喜びを体感してみよう。
◇ ◇ ◇
コケが主役も 乾燥に強く

コケが主役の盆栽も手軽に楽しめそうだ。やわらかな手触りやしっとりした風情、ルーペでのぞき込んだときに広がる光景を楽しむ人が多い。コケ専門店を運営する石河さんはガラス容器の中で育てる「苔(こけ)テラリウム」をつくるなど、その魅力の発信に努めている。
その石河さんに手入れのコツを聞いた。コケの盆栽は少々乾いたくらいでは枯れないという。完全に乾いたようでも、ゆっくりと水を吸わせれば活動を再開する場合がある。しばらく留守にするときはポリ袋などに入れて密閉し、冷蔵庫に入れておくとよいそうだ。
(ライター 土井 ゆう子)
[NIKKEI プラス1 2022年5月14日付]
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。