北海道「函館五稜乃蔵」 海産物に合う辛口

北海道の函館駅前から車で30分。自然豊かな函館市亀尾町の新緑に溶け込むように函館五稜乃蔵はある。昨年、函館市に約半世紀ぶりに誕生した酒蔵で、年初に地酒「五稜」の販売を始めた。近くを流れる松倉川水系の超軟水と地元で採れた酒造好適米(酒米)を使い徹底した手づくりにこだわる。
蔵は函館市内54年ぶりの酒蔵として昨年完成。旧亀尾小中学校の跡地を活用した。北海道の日本酒生産で実績を持つ上川大雪酒造(北海道上川町)が手掛ける3番目の酒蔵となる。ショップも併設、4月にオープンした。大きな窓からは屋外の森林、小川が眺められるほか、醸造作業を見学できるコーナーも設けている。
亀尾町は函館市街地と、縄文遺跡などがある函館市南茅部地区や鹿部町を結ぶ観光ルートの途中にあり、気軽に立ち寄ることができる。

「函館には酒蔵がないのかぁ」。取引先のこぼした一言が酒蔵造りのきっかけになったと運営会社の漆崎照政社長は明かす。本業は半導体製造装置などの開発生産を手掛ける地元機械メーカーの社長で、二足のわらじを履く。「大変だけど、どちらも地域貢献につながる仕事だから」と笑みをこぼす。
杜氏(とうじ)は上川大雪酒造の川端慎治総杜氏が務める。「水、米の質は問題ない。おいしい日本酒を造る条件はそろっている」と太鼓判を押す。かつては東北などから仕入れた酒米を使っていたが、函館五稜乃蔵は、亀尾町の農家に委託生産した酒米を使う。北海道の蔵で地元の水と酒米で造る地酒は珍しい。
蔵には約1640リットルの醸造タンクが8本。1つのタンクで720ミリリットルの四合瓶を約1300本仕込むことができる。
ただ、酒蔵としては「小さな蔵」(川端さん)だ。社員も川端さんを含め5人。大量生産には不向きだが、小回りが利くため味を調整したり、限定品など希少な商品も造りやすい。

函館名産の活イカ、塩辛など道南の海産物との相性は抜群。「辛口で後味が良く和洋に関係なく料理も引き立てる『のまさる酒』(函館の方言でついつい杯がすすんでしまう酒)」(川端さん)。販売本数に加え、地元や観光客が触れる機会も増えるとにらみ1.8リットルの一升瓶ではなくあえて四合瓶での販売にこだわった。
蔵の一部は函館工業高等専門学校の研究所として開放、学生が日本酒醸造に適した酵母の研究に取り組んでいる。研究所で生まれた酵母を使った日本酒が生まれる日も近い。「ここから函館の地酒造りを担う若者が育ってほしい」と漆崎社長は期待を寄せる。
初出荷分はすぐに売れ出足は好調だ。札幌国税局の2021年度新酒鑑評会で「五稜 純米吟醸」が純米酒の部で金賞を獲得した。今春、都内で限定販売したが、「まずは地元を中心に売り込んでいく」(漆崎社長)。函館の人に五稜のおいしさを知ってもらい友人や観光客にも薦めてもらうことが理想だ。
(函館支局長 佐々木聖)

[日本経済新聞電子版 2022年10月13日付]
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