水戸の明利酒類「百年梅酒」 じっくり熟成

JR水戸駅の南口から南に2キロ。幹線道路から脇に入ると、町工場を思わせる老舗酒造会社が現れる。日本酒「副将軍」で知られる明利酒類(水戸市)は、「百年梅酒」などのヒット商品を生み出している。ウイスキーの製造にも着手した。
明利酒類のある水戸市は、古くは水戸徳川家の城下町として栄え、いまでも文化にその名残がある。なかでも水戸藩第9代藩主徳川斉昭公が家臣や領民と共に遊息するために造園した偕楽園は市民の憩いの場だ。園内には約100品種、3000本の梅があり、市内では多くのメーカーが梅酒や梅干しの製造に取り組んでいる。
明利酒類は設立から間もない1960年から梅酒の製造販売を手がけている。国産の梅「白加賀」をつけ込んでから何年もの間熟成させた「百年梅酒」を中心にしたラインアップをそろえる。蜂蜜やブランデー、黒糖なども使って味と香りを整える。熟成させてとろりとした飲み応えの梅酒が代表作だ。
一方でフレッシュな味わいを楽しんでもらおうと、その年の青梅をつけ込んだ梅酒ヌーボー「百年梅酒 春花」も季節の風物詩として人気を集める。6月に収穫した梅をつけ込んで、その年のうちに瓶詰めする。2022年は12月2日に販売を開始。さわやかな味わいで、食中酒としてもおすすめだという。
百年梅酒は08年に大阪府で開かれた天満天神梅酒大会で優勝し、日本一となった。その後も13年の水戸の梅祭り梅酒大会で黄門賞(第1位)となるなど、各地の大会で高評価を得ている。
明利酒類の酒造りの幅は広く、1950年の設立当時から主力商品だった日本酒に加えて、焼酎、ジン、リキュールなど様々な種類の酒を造る。干し芋焼酎など茨城県の名産品を商品化することも多い。
事業の多彩さは酒造りだけではない。梅酒のヒットを経て、新型コロナウイルスの流行下ではいち早く医薬部外品への参入へ専用工場を新設。2021年に手指消毒剤「MEIRIの消毒」を発売した。加藤喬大専務は「スピード感を持って事業を進められる組織になっている」と評価する。

その勢いに乗り、次の事業の柱と位置づけるのがウイスキー製造だ。自家製の酵母を使って大麦を発酵させる工程では、日本酒でも使っているホーロー製のタンクを使う。木樽(だる)を使うのが一般的だが、独自の味わいを生むとみている。こうした類似する製法の酒造設備をうまく生かしているのも同社の特徴だ。
ウイスキーは22年10月に醸造を開始し、早ければ3月にも一部の原酒の樽を開く。完成品となる前に消費者から意見を聞くようなイベントを半年に一度ほど催す予定で、固定ファンを増やす取り組みを強化する。
明利酒類は江戸期末期の安政年間に創業した加藤酒造店が前身。新たなジャンル開拓と伝統のバランスを保ちながら、総合酒類メーカーとしての歩みを強める。
(水戸支局 松隈未帆)

[日本経済新聞電子版 2023年1月12日付]
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