焼き物の土で育むワイン 愛知・常滑ワイナリー

名古屋市中心部から知多半島に車を走らせ40分ほど。伊勢湾の見える丘に農園やレストランを手掛けるブルーチップ(愛知県常滑市)のワイナリーがある。焼き物が有名な街で、地元産のブドウを生かしたワイン造りに取り組む。ラベルのデザインや色使いに工夫をこらし、若者からも注目されている。
同社のワイナリー「常滑ワイナリー・ネイバーフッド」を訪れた。同市の畑で育てたブドウだけを使い「常滑ワイン」として販売している。
最大のこだわりは発酵から熟成までの期間。ビン内で熟成させる時間を含め6カ月と短くしている。ブドウの果実味を感じられる飲み口にするためだという。馬場憲之社長は「日本ではワインは高尚なイメージが強い。カジュアルに飲めるワインを造りたい」と話す。

馬場社長は、もともと証券会社の営業マンだった。アメリカ出張で立ち寄ったオレゴンのワイナリーで、地元の景色を見ながら気軽にワインを楽しむ姿に感銘を受けた。「まるで映画のワンシーンのようだった」(馬場社長)。「日本でもこの風景を再現したい」とワイナリーを開設し、今では常滑ワインなど12種類を年7000本製造する。
ワイン造りは「ブドウの力を引き出せるかがカギ」(馬場社長)。同市の粘土質の土は古くから常滑焼に生かされてきたが、ワイン造りでもこの土が効果を発揮する。土に豊富に含まれているとされるミネラル成分で、ブドウの酸味がしっかりとあるワインに仕上がるという。
ブドウ畑では枝1本に対して通常の3倍近い36枚の葉を残して光合成を促し、土から栄養分を吸い上げやすくしている。栄養分はワインが切れ目なく発酵するエネルギーになり、雑味を減らせるという。風が強い海の街で、ブドウの木を安定して成長させるための工夫でもある。

ワインの世界では、フランス語で気候や土壌など産地の自然条件を意味する「テロワール」を重視する。同社でも常滑産のブドウを使って常滑焼のかめで醸造した「常滑ピノ・ノアール・アンフォラ」を製造する。素焼きのかめの中でワインが空気を取り入れやすく、木のたるより熟成が早く進むため、よりまろやかな味わいが特徴だ。
常滑ワインはワイナリーや名古屋駅近くで2021年に開業したレストラン「コモン」で楽しめるほか、オンラインショップでも買える。コモンでは来店者の9割が20〜30代の女性。ボトルのラベルは「昔のアメリカのマッチ箱をイメージしたファンキーなデザイン」(馬場社長)にして、若者やワイン初心者が手に取りやすくしている。

オレゴンには都市部にもワイナリーがあるという。馬場社長は22年に名古屋市にも醸造施設を開設。市内でブドウ栽培を始めており、今夏にも「名古屋ワイン」の醸造を始める計画だ。「名古屋で造ったワインはどんな味になるかな」と期待を膨らませている。
(名古屋支社 大久保希美)
[日本経済新聞電子版 2023年3月9日付]
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