鹿児島の浜田酒造 金山跡で希少な日本酒製造

鹿児島県といえば芋焼酎。日本酒の銘柄なんて思いつかないという人も多いだろう。実際、生産量はわずかで国税庁がまとめる都道府県別の清酒売上数量には数字が載らないほど。その希少な日本酒を造っているメーカーの一つが浜田酒造(いちき串木野市)だ。
同社の主力商品は海童、だいやめといった芋焼酎の銘柄。日本酒は薩州正宗の銘柄で、同市にある薩摩金山蔵で造っている。どちらかといえば甘口で、力強さを感じる味わいだ。
金山蔵はもともと、江戸時代の薩摩藩のころから串木野金山として金を掘り出していた場所だ。その金山跡で焼酎や日本酒を製造・保管している。
鹿児島で日本酒をほとんど造らないのは「仕込みの際に気温が高いと、もろみが腐りやすく腐造(ふぞう)という状態になって酸っぱくなることがある」と蔵人(くらびと)の上西紀彰さんはみている。宮崎や沖縄などでも日本酒の製造が少ない理由の一つだという。
金山蔵でも当初、焼酎だけを製造していたが、日本酒を深く知ることで焼酎に還元して進化させたいと考えた。麹(こうじ)とコメ、水を仕込んで発酵させる醸造の最初の過程は日本酒と焼酎で共通する。他の蔵元で修業した杜氏(とうじ)の指導を受けて、2012年から薩州正宗の製造を開始。鹿児島での日本酒製造は約40年ぶりだったと同社は説明する。

金山蔵では仕込みから保存まで温度管理を徹底。仕込みなどを手掛ける製造棟では気温を10度に保っている。まず白米を蒸して米麹を加えて、水と酵母を加えてもろみにする。仕込みの過程で一貫して使う水が近くにある冠岳の天然水だ。「軟水で、日本酒造りでは避けたい鉄分がほとんどない」と上西さんは話す。
焼酎の発酵は一次もろみ、二次もろみと2回に分けて行うのが一般的だが、日本酒では初添、中添、留添と3段仕込みをする場合が多いという。発酵させる温度が日本酒は10度前後だが、焼酎は30度程度。「日本酒の発酵技術を焼酎にも生かしている」と上西さんは語る。例えば金山蔵で造る麦焼酎の十二萬七千七百五十は低温発酵させた商品で、キリッとした口当たりとフルーティーな香りが特徴だ。
できあがった酒はマイナス5度に保った冷蔵施設で貯蔵。薩州正宗はふくらみを感じさせる純米酒と、華やかな香りの純米吟醸、原料米に山田錦を使った大吟醸がある。数量限定のため、販売は金山蔵の売店のほか県内の土産店、同社のネット通販などにとどまる。

金山蔵ではトロッコ電車で坑洞内に行き、焼酎の製造過程などを見ることができる。新型コロナウイルス禍でトロッコツアーは一時中止していたが、22年5月から再開。現在は土日祝日限定の予約制で開いている。
カスタマーサービスチーム長の野々下幸史さんは「2月と3月は清酒と焼酎の試飲体験もできるコースを準備した。観光客が増えてくれれば」と期待している。
(鹿児島支局長 笠原昌人)

[日本経済新聞電子版 2023年2月9日付]
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