仏の伝統守るロゼ・シャンパン 複雑な香りも手作業で

フランス北東部シャンパーニュ地方に、足で踏んでブドウの果汁を搾り出す昔ながらの製法を守る生産者がいる。ブランド「ジョルジュ・ラバル」を持つバンサン・ラバルさんだ。伝統を大切にしつつ、少数派のロゼ・シャンパンに取り組んで新たな可能性を切り開こうとしている。
「機械を使わなくてもいいところは、手作業にしたくてね。自分の中ではとても大事なことなんだ」。シャンパーニュ地方中部ランス近くで年間2万本超のワインをつくるラバルさんは笑う。
「シャンパン」はシャンパーニュ地方でつくる発泡ワインのうち、ブドウの品種、剪定(せんてい)方法、アルコール度数などの規則を守った商品だけが使用を許される名称だ。約42億ユーロ(約5400億円)の総売上高のうち、6割が輸出向けと世界的に人気が高い。日本は英米に次ぐ国外3番目の市場だ。

約1万6千人の生産者がボトルに換算して年約2億3千万本のブドウを育てる同地方で、ラバルさんの家族は17世紀からシャンパンをつくっている歴史ある生産者だ。摘み取りなど生産工程は機械化が進むなか、代々手作業を重視してきた。1970年代に父親が始めた無農薬栽培も、ラバルさんが引き継いでいる。
特徴的なのが、収穫したブドウを潰す工程だ。現代はほぼ全ての生産者が機械を使うが、足で踏み潰す古代からの製法を守り続けている。タンクを収穫したブドウで満たし、消毒などの衛生対策をとった上で、素足で10分ほど行う。
ラバルさんは「足で踏むのには、ちゃんと意味がある」と説明する。機械とは異なり、よく潰れた果実、少し潰れた果実、全く潰れていない果実が混じり合う。発酵過程でこの不均一さが香りを複雑にするという。
足踏み作業は自らやることもあれば、知人に依頼するときもある。「何より面白いしね」と笑う表情からはワイン生産を心から楽しんでいる様子がうかがえる。

昔からの製法にこだわるだけではない。シャンパン全体の約2割を占めるにすぎない少数派のロゼ・シャンパンを手掛け、新しい可能性を探ろうとしている。
なぜそれが新たな挑戦につながるのか。フランスでは近年、ロゼへの評価が変わりつつあるからだ。「かつては『女性が飲む甘いワイン』という偏ったイメージがあり、格の低いワインと見る人もいた。だが味の複雑さを見直す動きがあり、可能性が広がってきている」(ラバルさん)
赤ワインと白ワインは数千年の歴史の中で、どの料理と合わせるべきかといった認識が広く共有されている。一方でロゼにはそういった固定観念にしばられない強みもある。どの料理を想定して独自の味・香りをつくるかは腕の見せどころだ。
完成したロゼ・シャンパンは落ち着いた淡いピンク色。口に含むと、辛口の味わいの中に軽さと重厚さの両方を感じられた。1本約60ユーロから販売しており、国外でも人気が高まっている。
(パリ支局長 白石透冴)

[日本経済新聞電子版 2021年12月9日付]
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